研究課題/領域番号 |
18K06637
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
野水 基義 東京薬科大学, 薬学部, 教授 (00311522)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ラミニン / 基底膜 / 細胞接着 / インテグリン / αジストログリカン |
研究実績の概要 |
本研究課題は、 我々が所有する合成ペプチドのライブラリーから同定されたラミニン活性ペプチドを高分子多糖に固定化したペプチド-マトリックスを人工基底膜として開発することを目的としている。本年度は、我々が構築した約3000種類のラミニンペプチドライブラリーを用いて、ペプチドをキトサンマトリックスに結合する方法を用いマトリックス上で細胞に対して活性を有するペプチドの詳細な抽出を行った。ラミニンα5鎖およびβ1-3鎖に位置するペプチドの細胞接着活性の詳細な解析を行い、インテグリンに結合するラミニン活性ペプチドhA5G66(DLQQNLGSVNVS)、hA5G74(GSLSSHLEFVGI)、B34(REKYYYAVYDMV)、B67(IPYSMEYEILIRY)、B2-10 (APNFWNFTSGRG)の5種類を同定した。また、最近我々が新たに見いだした細胞接着活性の引き金となる受容体であるα-ジストログリカン(α-DG)に注目し、αDGの結合するペプチドをラミニンα2鎖Gドメイン由来のペプチドをペプチド-キトサンマトリックス法でスクリーニングを行った。その結果、新たにA2G77 (LEVRTEAESGLLF)、A2G95 (KAVGGFKVGLDL)2種類αDG結合ペプチドを同定した。さらに、今までに見つかっていた2種類のαDG結合ペプチドと新たに同定された2種類の活性ペプチドを混合してキトサンマトリックスに結合することにより、αDG結合活性が相乗的に増加することを見出した。これらの結果は、αDGへの結合部位の異なる活性ペプチドを混合することによりαDG結合活性が相乗的に増加するペプチド-マトリックスを作成することが可能であることを示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題においては、マトリックス上で細胞に対して活性を有するペプチドを用いる必要がある。そのため、本年度は、我々が構築した約3000種類のラミニンペプチドライブラリーを用いて、ペプチド-キトサンマトリックス法で活性を有するペプチドの再抽出が必要になる。そこで、本年度はラミニンα5鎖Gドメインおよびβ1-3鎖に位置するペプチドの細胞接着活性の詳細な解析を行った。本研究において、新たに見つかったペプチドを含め、ペプチド-マトリックス上で5種類のインテグリンを介して細胞接着を促進するペプチドを同定することが出来た。これらの研究成果は国際学会において1回報告した。これらを含め、現在、ペプチド-キトサンマトリックス上で活性を示す約30種類のペプチドが同定できており、今後これらを用いて混合したペプチド-マトリックスを作成することにより、人工基底膜としての応用研究の展開が可能となった。ペプチド-マトリックスの作成方法に関して、Curr Protoc Cell Biol.誌に詳細を報告した。また、キトサンマトリックス上に異なるインテグリンに作用する複数のペプチドを混合して固定化したときの作用に関して、J Biomater Appl.誌に報告した。現在、これらを含め、約20種類の活性ペプチドの合成と多糖マトリックスへの固定化を検討中である。また、最近我々が新たに見いだした細胞接着活性の引き金となる受容体であるαDGに注目し、αDGの結合するペプチドをラミニンα2鎖Gドメイン由来のペプチドをペプチド-キトサンマトリックス法でスクリーニングを行った。新たに2種類のαDG結合ペプチドを同定した。さらに、このうちの3種類を混合してキトサンマトリックスに結合することにより、α-DG結合活性が相乗的に増加することを見出した。これらの研究成果は国際学会において2回報告した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題で目的としている人工基底膜の開発研究を、当初の予定どおりに、 我々が同定したラミニン活性ペプチドを高分子多糖に固定化したペプチド-マトリックスを用いて行う。我々が構築した約3000種類のラミニンペプチドからなるライブラリーから見出された細胞接着活性を有する約300種類の活性ペプチドの中でペプチド-マトリックスにした場合に顕著な活性を示すペプチドをまず最初に再評価する。このペプチド-マトリックスでの再評価が完了し次第、 アルギン酸に結合し、塩基性のキトサンとポリイオンコンプレックスを形成させて安定なペプチド-マトリックスを作製する。次に、細胞接着活性の強いものを見出し、受容体の同定と詳細な生物活性の解析を行い、作用の違いによりグループ分けを行う。また、各グループで最も強い活性のペプチド-マトリックスの最適化を、構造活性相関によるペプチドの最適化、長さや物性の検討によるスペーサーの最適化、多糖の種類や架橋度の検討によるマトリックスの硬さや物性の最適化の3方面から行う。最適化されたペプチド-マトリックスやそれらを混合した混合ペプチド-マトリックスを用いて、様々な生物活性を評価する。これら一連の研究ではラミニンとマトリゲルをコントロールにおき、線維芽細胞、上皮細胞、神経細胞などの培養実験、唾液腺などの器官培養実験により評価し、人工基底膜ともいえる全く新しい医用材料の創製を行い、バイオマテリアルとして応用していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度予定していたペプチド合成が次年度に繰り越すものがあったため。次年度に不足分のペプチド合成用試薬の購入をを行う。
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