研究実績の概要 |
臭化難燃剤が、我々の見出したケトン体利用酵素-アセトアセチルCoA合成酵素(AACS)を介した代謝経路に与える影響を明らかとするために、培養脂肪細胞(3T3-L1細胞, ST-13細胞)を用いて検討した。その結果、本邦で広く用いられているテトラブロモビスフェノールA(TBBP-A)は、成熟脂肪細胞には影響しなかったが、未分化細胞では濃度・時間に依存的にAACS遺伝子発現を上昇させることが認められた。さらに、TBBP-Aにより脂肪酸合成酵素(FAS)や、褐色脂肪細胞分化に関わるLSD-1やNrf-2なども未分化な細胞でのみ遺伝子誘導されたが、IL-6などの炎症性サイトカインの発現は抑制傾向であり、同じケトン体を基質とするCoA転移酵素(SCOT)や脂肪細胞分化マーカ(PPARγ)では変動が認められなかった。また、対照として用いたNeuro-2a細胞やHL60細胞では以上のような結果は認められなかった。 また、アデノ随伴ウイルスによる発現抑制(S. Hasegawa et al, BBRC, 2018)および、CRISPR-Cas9系によるノックアウトマウスを用いたAACS欠損実験も行った。その結果、AACSの全身的抑制がタンパク質の翻訳後修飾関連酵素に影響を与えるデータを得た(未発表)。さらに、海外との共同研究においてヒト小児脳症でAACS遺伝子の点変異があることも見出しており(T.U.J. Bruun et al., Genet Med. 2018)、脂肪組織以外の組織でも今回明らかにしたTBBP-Aの影響を検討する準備を行っている。 以上の結果は、本邦で使用されている臭化難燃剤TBBP-Aが未成熟な脂肪細胞を中心に異常な代謝を促し、脂肪細胞などの質的変化を誘発する可能性を示唆している。また、TBBP-Aは細胞の分化段階によって、肥満毒性が異なる因子である可能性も示唆された。
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