研究実績の概要 |
臭化難燃剤が、我々の見出したケトン体利用酵素-アセトアセチルCoA合成酵素(AACS)を介した代謝経路に与える影響を明らかとするために、培養脂肪細胞(3T3-L1細胞, ST-13細胞)を用いて検討した。 2020年度は、培養脂肪細胞の分化とケトン体代謝への影響を詳細に検討するために、分化前後の24時間処理による影響の違いを検討した。その結果、分化誘導カクテル処理48時間前後にTBBP-Aを24時間処理した群ではAACS、SCOTの両ケトン体利用酵素および脂肪酸合成酵素FASの遺伝子発現に顕著な影響は認められなかった。一方で全く分化誘導を行わなかった非分化誘導群ではAACSだけでなく、FASと脂肪滴形成に関わるperilipin-1の遺伝子発現も上昇していた。更に、脂肪細胞の褐色脂肪細胞化(ベージュ化)に関わるUCP-1,UCP-3, PRDM16, CIDEA, LSD-1についても発現上昇が認められた。 この時、培養上清中へのケトン体(βヒドロキシ酪酸及びアセトアセチルCoA)の量を測定したところ、TBBP-Aの濃度依存的にケトン体の細胞外放出量が上昇していた。その一方で、肝臓などでケトン体生成に関わるFGF-21遺伝子発現への顕著な影響は認められなかった。 以上の結果から、TBBP-Aは脂肪細胞全体としてベージュ化の方向性、即ち蓄積脂質の分解方向へとシフトさせる効果を持つ可能性が示唆された。これらのことは、本邦で使用されている臭化難燃剤TBBP-Aが未成熟な脂肪細胞に対し、血中ケトン体の正常な脂質合成への利用を妨げる作用を持つ可能性を示唆している。 なお、本研究結果は2021年1月にBPB report誌にて報告した(M. Yamasaki et al., BPB rep., 4(1), 41-46, 2021)
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