カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)は、健常者に感染すると深刻な疾患を起こさずに潜伏感染し、潜伏感染関連核抗原(LANA)を発現してエピゾームDNAとして核内で維持される。潜伏感染者の免疫不全時に、KSHVはカポジ肉腫やPEL(Primary Effusion Lymphoma)などの悪性腫瘍を引き起こす。KSHVは、宿主細胞のシグナル伝達や細胞機能を利用または破綻させることで、がん化や感染維持を行なう。我々は、このようなウイルスによる細胞機能の乗っ取り行為を「分子海賊行為」と名付け、そのメカニズムについて明らかにしてきた。一方で、ごく少数(1%以下)の潜伏感染したKSHVは、転写因子RTAの発現により溶解感染へと移行しウイルス産生を行なう。 本研究において、我々はKSHVの分子海賊行為による膜蛋白質Xの発現低下と膜蛋白質Yの発現上昇の分子機構について実施し、現在も継続して研究を実施している。一方で我々は膜蛋白質Xの分解機構と遺伝子発現に関わるプロモーターと転写因子の同定に成功し、一部は論文として発表した。また、KSHVの溶解感染期におけるORF17が触媒するウイルスキャプシドの形成機構、さらに、ORF66を含むvPIC (Viral Pre-Initiation Complex)が関与する後期遺伝子発現機構とウイルス学的意義を明らかにし、論文として発表した。さらに、新しいKSHVの分子海賊行為の一つとして、KSHVによるユビキチン様タンパク質FAT10による宿主翻訳後修飾の乗っ取りとウイルス複製への利用について、その詳細を解明し論文として発表した。また、申請者はKSHV関連疾患のPELを標的とした創薬研究も実施し、CaイオノフォアのモネンシンとC60フラーレンがPEL細胞の増殖を特異的に抑制することを見出した(投稿準備中)。
|