研究実績の概要 |
腎尿細管ヘンレループの太い上行脚(TALH)における電解質の再吸収は、ヒトの体液調節や血圧調節において極めて重要である。ここでは、2型のNa+, K+, 2Cl-トランスポーター(NKCC2)が、ROMK (Renal Outer Medullary K+ channel) K+チャネルとともにラフトに集積、協働してNaClの再吸収にあたる。NKCC2は利尿薬の第一選択薬で、心不全や高血圧の治療薬としても使用されるループ利尿薬(フロセミドなど)の標的分子である。また、ヒトのNKCC2やROMKの遺伝子変異は、低カリウム血症、代謝性アルカローシス、高レニン・高アルドステロンをともなうバーター症候群を引き起こすことが知られている。NKCC2は抗利尿作用を示すバソプレシン刺激によって細胞内での局在を大きく変えて機能調節を受けるが、その全体像は明らかではない。これに対して、私たちは新たにアクチン結合タンパク質であるモエシンがNKCC2やROMKと会合するという結果を得た。モエシンはNKCC2やROMKを含むタンパク質複合体を作り、これを膜ドメインであるラフトに集積する役割を担うものと想定される。また、低分子量Gタンパク質に働いてNKCC2のエキソサイトーシスを調節するものと想定される。これに対して、本研究では、モエシン欠損マウスを用いて血漿、尿の定量分析を行うほか、マウス由来の腎髄質尿細管上皮細胞を用いて、NKCC2やROMKの発現部位の検討、ラフトドメインへの集積や細胞内トラフィキングの検討を行い、モエシンによるNKCC2やROMKの発現調節、機能調節を明らかにする。また、酵母ツーハイブリッド法や免疫共沈殿法を用いて、モエシンやNKCC2が会合する新たなタンパク質分子を探索し、NKCC2機能調節の全体像を明らかにする。
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今後の研究の推進方策 |
モエシンの(1) 腎尿細管における尿濃縮、体液調節や血圧調節における働きを確認し、(2) NKCC2, ROMKなどのタンパク質分子の相互作用や細胞内トラフィキング調節機構における働きを確認し、引き続き以下のような実験を行う。 (1) マウス個体を用いる実験: 野生型マウス、モエシンノックアウトマウスを代謝ケージに入れて、飲水量、摂食量、尿量などを測定する。尿・血清を採取して、Na+, K+, Cl-含量の測定を行う。 (2) TALH(ヘンレループの太い上行脚)部分を含む尿細管上皮細胞を用いる実験:マウスからTALHを含む尿細管上皮細胞を調製する。 (2)-1. 細胞膜表面におけるNKCC2, ROMKタンパク質などの発現量の検討: 尿細管上皮細胞に対してビオチン化試薬で標識する。ビオチン化標識されたタンパク質をアビジンで捕捉し、SDS-PAGE、ウェスタンブロットを行い、標的タンパク質(NKCC2, ROMKなど)を検出する。薬物(漢方薬成分など)投与にともなうタンパク質の細胞膜表面を比較・確認する。モエシンの欠損や薬物投与にともなう発現量変化を検討する。 (2)-2. NKCC2, ROMKタンパク質のエンドサイトーシス、リサイクリングの検討: 上記のように尿細管上皮細胞を膜不透過性のビオチン化試薬で標識する。37℃でエンドサイトーシスを促したのち、細胞表面に残存するビオチン標識を MeSNa(2-mercaptoethanesulfonate)処理して取り除く。細胞を溶解し、細胞内に取り込まれたビオチン標識タンパク質を検出する。モエシンの欠損にともなうエンドサイトーシス量の変化を検討する。(2)-3. モエシン, NKCC2との免疫共沈殿実験: 尿細管上皮細胞ライセートをモエシン, NKCC2抗体で免疫沈澱する。
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