研究実績の概要 |
臨床で発見された先天性の糖鎖形成不全の患者においてZIP8の遺伝子SLC39A8に変異が見つかり、ZIP8変異が低Mn血症をおこすことが報告された。患者のZIP8では、V33MとS335Tの二重変異、G38RとI340Nの二重変異の計4カ所のアミノ酸変異が見出された。一方、ゲノムワイド関連解析により、統合失調症、低血圧、肥満、HDLレベルなどにSLC39A8のSNP(rs13107325)が関連していることが報告されている。rs13107325はアミノ酸変異(A391T)を生じる。これら変異が金属輸送に及ぼす影響は明らかになっていなかった。哺乳類のZIP4の立体構造が推定され、ZIPによるZn輸送にはTMD4とTMD5が重要であることがわかった。そこで、ZIP8を欠損した⊿ZIP8 DT40細胞を活用し、先天性糖鎖形成異常を示したZIP8の4ヵ所それぞれの変異、SNPで見出されたA391T変異を導入したhZIP8変異体を作製し、安定発現細胞におけるMn, Cd輸送活性を解析した。放射標識した54Mnを用いてMn取り込み効率を測定した。ΔZIP8 DT40細胞に野生型hZIP8を導入した細胞は、ΔZIP8細胞よりMnの取り込みが著しく増加した。先天性糖鎖形成不全を起こしたZIP8の4ヵ所のアミノ酸変異のうち、(S335T)あるいは(I340N)発現細胞におけるMnの取込みはΔZIP8細胞と同じレベルの低い値であった。一方、(V33M)あるいは(G38R)発現細胞は野生型hZIP8発現細胞よりやや高いMn取り込み効率を示した。S335およびI340はTMD5に位置することが予測され、これらのアミノ酸がZIP8によるMnの輸送に重要な役割を果たすことが示唆された。(A391T)発現細胞におけるMnの取込みは野生型hZIP8発現細胞と同レベルかやや低下する程度で、著しいMn取り込み効率の低下は示さなかった。A391はTMD7の近傍に位置する。このSNPを持つヒトの血中Mn濃度は、10~20%しか低下しないことが報告されており、A391T変異がなぜ多様な疾患に関与するのか、今後の検討が必要である。
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