研究課題/領域番号 |
18K06647
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
宮内 浩典 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 副チームリーダー (50619856)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | インフルエンザウイルス / ワクチン |
研究実績の概要 |
インフルエンザワクチンは現在ほぼ唯一のインフルエンザウイルス感染防御に有効な手立てであるが、ウイルスゲノムの頻繁な変異によって、現状のワクチンの効果はワクチン株に近縁のウイルス感染に限定されてしまう。広汎なウイルス株を認識する広域中和抗体を誘導するワクチンが出来れば、この問題は解決する。本研究は広域中和抗体の産生機構を明らかにすることを目的に進めている。本年度の研究において、我々は複数のウイルス株を認識する中和抗体(交差中和抗体)は、インフルエンザウイルスが肺で感染増殖した際に誘導されることを明らかとした。まず我々は2009年パンデミック株であるNarita株の生ワクチンによってマウスを免疫した場合と、同じ株の不活化ウイルスワクチンによって免疫した場合に誘導される交差防御能(違う株のウイルスに対する防御能)を比較した。その結果、いずれのワクチンにおいても免疫に用いたNarita株の感染は防御されたが、季節性インフルエンザ株であるPR8株に対する防御効果は、生ワクチンによってのみもたらされた。このことから生ワクチンによって交差中和抗体が誘導されることが示唆された。次に、生ワクチンでみられるウイルス増殖が、これらの交差中和抗体の産生に必要であるか否かを検証する目的で、インフルエンザウイルスに感染はするが、ウイルスがほとんど増殖しない遺伝子組み換えマウスを用いて検討を行った。このマウスにおいて生ワクチンはワクチン株ウイルスに対する中和抗体の産生は誘導したが、ワクチン株以外のウイルスを防御する交差中和抗体は誘導しなかった。また、抗ウイルス薬を用いて、ウイルス増殖を阻害したマウスにおいても同様の結果が認められた。これらのことから我々は肺でのウイルス増殖が交差中和抗体の誘導に寄与していると結論づけた。現在、この分子メカニズムを明らかにする目的で肺のトランスクリプトーム解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度における研究によって、交差中和抗体がウイルス増殖によって効果的に誘導されることを、複数のマウス実験系において確かめることが出来た。またウイルス増殖によって交差中和抗体が誘導される分子メカニズムを明らかとする目的で、ウイルス感染肺から肺に常駐する免疫細胞をセルソーターにより分離し、それぞれにおけるトランスクリプトーム解析を行っており、概ね初年度中に解析は終了している。これらのことから本研究課題の進展状況は順調であると判断出来る。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、交差中和抗体の産生メカニズムに焦点を絞って解析を進めていく予定である。インフルエンザウイルス感染によって肺の排出リンパ節に、抗体産生B細胞の形成に重要な組織である胚中心が形成されることが知られており、我々の実験系においても、胚中心のと、その形成に関わる濾胞性T細胞の存在を確認している。また肺のトランスクリプトーム解析から、ウイルスに感染した細胞からは様々なサイトカインが産生され、そのうちいくつかについては抗体産生との関連が予想されている。これらの組織や細胞、さらにはサイトカインが交差中和抗体の産生にどのような役割を担っているのかについて解析を進める予定である。我々は胚中心が形成されない遺伝子組み換えマウスや、濾胞性T細胞を欠損した遺伝子組み換えマウス、種々のサイトカインの欠損マウスやレポーターマウスを所有、維持しており、これらのマウスを用いることで次年度以降も順調な研究の進展が期待できると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
遺伝子組み換えマウスの繁殖が予想より効率よく行えたため、飼育繁殖に関わる費用が安くなった。またまとめ買いやキャンペーンの活用などにより解析に使用する抗体やシークエンス用の試薬の費用が抑えられた。 これらの経費については翌年度において行う、中和抗体産生細胞の遺伝子解析の資金に追加することで、さらに詳細にウイルス抗原認識抗体のレパトア解析を行うこととする。
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