研究課題/領域番号 |
18K06649
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
熊谷 圭悟 国立感染症研究所, 細胞化学部, 主任研究官 (40443105)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | クラミジアトラコマティス / CERT / セラミド / スフィンゴミエリン / スフィンゴミエリン合成酵素 / 封入体 / 細胞内寄生細菌 / 阻害剤 |
研究実績の概要 |
本研究は、クラミジア感染時に宿主細胞のセラミドが菌体上のスフィンゴミエリンへと至る具体的な流れを明らかにすると共に、その流れがクラミジア感染にどのような意義を有するのか探ることを目的としている。一昨年度はCERT欠損HeLa細胞の細胞質に蛍光タンパク質mVenusを発現させ、クラミジア感染時のライブイメージングを撮影することで、細胞死と封入体膜損傷の前後関係、および、それらの事象の経時的な変化を明らかにした。昨年度は更に、クラミジア感染HeLa細胞をCERT阻害剤で処理したのち、電子顕微鏡を用いて微細構造を解析したところ、ライブイメージングの結果から推測された通りの結果が得られ、事象の前後関係を確定することができた。また、CERTが機能不全となった状況下でクラミジアの菌体がどのような形態を示しているのかが明らかとなり、菌の状態について推測する手がかりが得られた。本研究申請はクラミジアに感染したCERT欠損細胞において、細胞死が誘導されるまで封入体膜が維持されていた場合とされていなかった場合に備えて、それぞれ異なるアプローチを計画していたが、事象の前後関係が明らかになったので片方の計画は凍結または縮小してよいと判断することができた。また、CERT阻害剤の派生化合物を用いた解析も進めており、この化合物がCERT以外の因子に作用することでセラミドのフローを抑えたり、菌体の形態を変化させたりすることを明らかにした。未発表データにつき現段階では詳細に記述することができないが、この化合物がセラミドの流れと意義を探る上で非常に良いツールとなることが明らかにされつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究計課題を申請した時点では、今後得られる実験結果を想定して様々な計画を立てていたが、実験を進めるに従って、実際に行う必要のない計画と資源を集中させるべき計画が明確になってきた。申請書に記述された内容の中に未実施の項目が散見されるが、それらの多くは現在では不要と判断されたものである。方針が確定してきたという点では進捗していると言えるが、論文として成果をまとめるにはまだ検討しなければいけないことが多く残っている。2020年度中に度々感染が拡大した新型コロナウイルス感染症によって、行政対応業務が増加するとともに、コロナと関係のない研究の一時中断要請が出されたことが進捗を遅らせる要因となった。一方、申請時には想定していなかった抗クラミジア活性を有する化合物が見出され、この化合物は宿主細胞からクラミジアへのセラミドのフローとその意義を解明するために大いに役立つことが判明した。派生化合物の方もまた、成果としてまとめるためにまだ多くの実験を要する段階にあり、総合的にみて進捗状況はやや遅れていると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
本課題を推進する中で偶然見出した抗クラミジア活性を有するCERT阻害剤の派生化合物が、今後課題を推進する上で大いに役立つツールであることが判明した。そこで、本年度はこの化合物を中心に据えて、宿主細胞からクラミジアへのセラミドフローの解明とその意義を明らかにしたい。 また、CERT欠損細胞にクラミジアを感染させた時に細胞死等の現象が生ずることを適切な図によって説明できるように準備するとともに、封入体膜の損傷がどのようなレベルで生じているのかを考察するための実験を実施する。計画を詳細に記述することは論文発表前の現段階では控えたい。また、引き続きクラミジアのスフィンゴミエリン合成酵素を同定するべく候補遺伝子の探索を続ける。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い緊急事態宣言が発令され、代表者が所属する組織においても新型コロナ感染症と関係のない研究活動を一時中断するよう指示があった。この要請に従ったため一時的に研究が遅れた。学会等の中止、オンライン開催化により旅費を全く使用しなかったことも使用額が減少した原因の一つである。本研究課題申請時には想定していなかったワクチン関連の行政的な対応を急遽求められるようになった。この行政対応業務は国民に早くワクチンを届けるために最優先で対応せざるを得ず、本研究課題の推進に振り向ける時間と労力が著しく限られていたことが次年度使用額が生じた最も大きな原因である。次年度上半期までは同じような環境が続くと考えられており、下半期に遅れを取り戻すべく実験の実施と論文投稿を推し進める予定であるが、状況は厳しいと言える。
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