研究実績の概要 |
本研究の目的は、クラミジア感染時に宿主細胞のセラミドが菌体上のスフィンゴミエリンへと至る具体的な流れを明らかにすると共に、その流れがクラミジア感染にどのような意義を有するのか探ることである。 研究期間の前半では、クラミジア感染時のCERT欠損HeLa細胞について解析を進めた。CERT欠損HeLa細胞の細胞質に蛍光タンパク質を発現させ、クラミジア感染時のライブイメージングを撮影したところ、感染後16時間から24時間の間に封入体膜が突然崩壊し、速やかに宿主細胞の細胞死が誘導されることが判明した。CERT欠損細胞内でクラミジアの増殖が著しく抑制されるのは封入体膜の崩壊に原因があり、封入体膜が維持されたままc-di-AMP等の菌体成分が膜を透過することによって細胞死が誘導されるのではないことが分かった。 本研究では、クラミジア感染によって新たに出現する“クラミジア感染依存的なスフィンゴミエリン合成活性”(cidSMS)の原因遺伝子の同定には至らなかったが、意外な方向から研究が進展した。CERT阻害剤による抗クラミジア活性を調べた際に、セラミド模倣型CERT阻害剤 (1R,3S)-HPA-12の立体異性体である (1R,3R)-HPA-12が他のどのCERT阻害剤よりも強い抗クラミジア活性を示した。(1R,3R)-HPA-12はCERT阻害活性を持たないにも関わらず、クラミジアの増殖を抑制し、感染性粒子の再生産も抑制していた。興味深いことに、この化合物はcidSMSを阻害していた。その阻害活性の強さが菌体へのセラミドの取り込み、及び抗クラミジア活性と強く相関していたことから、cidSMSの阻害によってクラミジアの増殖が抑制される可能性が示された。これにより、申請書で記述した所のCERT以外の点でセラミドフローを止めた時に起きる現象の一端を明らかにすることができたと我々は考えている。
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