研究課題/領域番号 |
18K06652
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
東 恭平 東京理科大学, 薬学部薬学科, 講師 (10463829)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 抗体医薬 / N型糖鎖 / ポリアミン / オリゴ糖転移酵素 |
研究実績の概要 |
昨年度までの研究により、私達は、抗IL-8抗体産生細胞 (CHO-DP12)にポリアミン生合成阻害剤を添加して細胞内ポリアミン量を減少させると、コントロールに比べて抗体の分泌量が約30%減少することを見出している。 細胞内ポリアミン量の減少に伴う抗体産生量の減少は、糖鎖構造よりも抗体へのN-グリコシル化効率の減少によることが考えられたため、今年度はオリゴ糖転移酵素に着目した。 動物細胞におけるオリゴ糖転移酵素は複数のタンパク質から形成されており、触媒サブユニットとしてSTT3AとSTT3Bがある。STT3AとSTT3B複合体の両方に共通のサブユニットとしてRPN1、RPN2、OST48、OST4、DAD1、TMEM258、STT3A複合体のアクセサリーサブユニットとしてKCP2、DC2、STT3B複合体にはMAGT1、TUSC3が知られている。そこで、STT3A、STT3B、RPN1、RPN2、OST48の抗体を購入し、CHO-DP12細胞をポリアミンの有無で培養した際にオリゴ糖転移酵素の発現量が変動するかどうかをウェスタンブロット法で検討した。その結果、ポリアミンを減少させるとSTT3Bの発現量が減少した。また、NIH3T3細胞のポリアミン量を減少させたときもSTT3B発現量の減少が認められた。上記5種のうち、RPN1、RPN2、OST48の発現量はポリアミンの有無で変化せず、STT3Aは検出できなかった。 マウスSTT3B遺伝子の5'-UTR(365塩基)における特徴的な塩基配列として、四重鎖RNA構造であるG-quadruplex (G4)を組む可能性のある配列が6か所見つかった。5'-UTRにG4構造が形成されるとリボソームスキャニングが阻害されること、ポリアミンはG4構造をほどく作用があることが先行研究により明らかとなっている。ポリアミンによるSTT3Bの合成促進が翻訳レベルで促進される場合は、G4構造に着目する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、新規に配属された学生6人とともに研究室を立ち上げたため、細胞培養やウェスタンブロット法およびHPLCによる糖鎖分析法を再開するのに時間がかかった。研究室の立ち上げはほぼ完了したが、緊急事態宣言に伴うキャンパスの閉鎖により研究がストップしてしまっている。
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今後の研究の推進方策 |
1. STT3A、KCP2、DC2、MAGT1およびTUSC3の抗体を購入したので、ポリアミンの有無で変動するかどうかをCHO-DP12を用いて調べる。 2. ポリアミン減少による抗体産生の減少が、STT3B cDNAの形質導入により軽減されるかどうかを確認する。 3. STT3B mRNAの発現量がポリアミンの有無で変動するかどうかをqPCRで検討する。mRNAの発現がポリアミンの有無で変化がない場合は、ポリアミンによるSTT3B合成促進は翻訳レベルで起こる可能性が高い。STT3Bの5'-UTRをEGFP遺伝子と融合させたプラスミドを作製し、ポリアミンによるSTT3B合成促進機構を調べる。ポリアミンによるSTT3B mRNAの発現が増加した場合は、転写レベルの可能性があるのでSTT3Bの転写因子に着目する。 4. N-結合型糖鎖の機能は抗体の他、エリスロポエチンでもよく調べられている。エリスロポエチンの糖鎖構造は、抗体の糖鎖に比べて分岐鎖が多いという特徴がある。エリスロポエチンは尿細管間質細胞で産生されるが、肝由来のHepG2細胞でも少量であるが産生されることが報告されている。そこで、HepG2細胞をポリアミンの有無で培養し、エリスロポエチンの糖鎖構造に対するポリアミンの効果についても検討する。
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