研究課題
アルツハイマー病(AD)の特徴的な病理学的所見は、それぞれAβとタウから構成される2種類のアミロイド蓄積である。これらのアミロイドの形成と蓄積がAD発症の原因であると考えられていることから、Aβおよびタウの凝集抑制あるいはそのクリアランス促進がADの根本的治療に繋がると考えられている。そこでAD治療を目指して、これまでにアミロイドに対して光酸素化触媒と光刺激による人工的な酸素原子付加を検討してきたところ、酸素化AβはAβ凝集阻害能をもち、脳内においてはクリアランスされやすい可能性を見出した。本研究ではその可能性の検証とメカニズムを明らかにすることを目的としている。酸素化Aβが脳内でクリアランスされやすいかどうかを検証するために、野生型マウス脳内に酸素化Aβと非酸素化Aβを注入し、24時間後に脳内に残存するAβ量を検討した。その結果、非酸素化Aβにくらべ、酸素化Aβの脳内残存量は有意に減少しており、酸素化されることによりクリアランスを受けやすくなることが明らかになった。そこで酸素化Aβの脳内クリアランス機構の一つとして、ミクログリアによる分解に着目した。ミクログリア由来培養細胞株であるMG6細胞に対し、酸素化Aβを投与した。その結果、酸素化はMG6細胞におけるAβの取り込みには影響しなかった。しかし一方で、取りこまれた後の細胞内でのAβ分解速度を評価すると、酸素化AβはMG6細胞内で非酸素化Aβに比べ早く代謝されることがわかった。これらの結果は、酸素化によりAβアミロイドのクリアランスが促進するという仮説を支持する結果であり、またその亢進メカニズムとしてミクログリアによる分解機構が関与していることを示唆している。今後、その詳細な分子機構についても検討していきたい。
2: おおむね順調に進展している
酸素化Aβの分解亢進という本研究の基盤となっている仮説を支持する結果が得られている。またそのメカニズムとしてミクログリアの関与を示唆するデータも得られており、順調に進んでいると考えている。
酸素化Aβのミクログリアによる分解亢進については、薬剤投与によって脳内からミクログリアを除去したマウスを用いて実験を行うことによって、さらに確かな結果を得ることができると考える。またその分解亢進分子メカニズムの一つとして、酸素化Aβとミクログリアの分解酵素との親和性が向上した可能性が考えられるため、そのような分解酵素の探索・同定を目指したい。そのために、酸素化Aβの分解に関わる酵素の性質をいくつか薬理学的に明らかにし、酵素同定に繋がるような条件をリストアップしたい。
すべて 2019 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
Chem. Commun.
巻: 55(44) ページ: 6165-6168
10.1039/c9cc01728c
J. Biol. Chem.
巻: 294(28) ページ: 10886-10899
10.1074/jbc.RA118.005385
http://www.f.u-tokyo.ac.jp/~neuropsc/tomita/index.html