研究実績の概要 |
本研究では、RNAポリメラーゼの構造変換を制御する因子が、開始から伸長への移行段階でどのように入れ替わり、転写活性を制御しているのか解明することを目指している。 真核生物RNAポリメラーゼII(Pol II)は、転写開始段階では基本転写因子(TFIIB, -D, -E, -F, -H)と共に転写開始複合体(PIC)を形成する。一方、伸長段階では、DSIFやPAF1といった転写伸長因子がPol IIと結合して、転写伸長を制御する。近年のPol IIと制御因子群からなる複合体の構造解析から、TFIIEとDSIFはPol IIの同じ二つの領域(クランプとストーク)に結合することが明らかとなった。そこでPICを形成する基本転写因子の各サブユニットとDSIFの結合実験を行った。その結果、DSIFはTFIIHのサブユニットであるp62とXPBに強く結合し、TFIIEβとも結合した。p62はコアTFIIHの構造を安定化するサブユニットである。N末端にPHドメインを有しており、このドメインはTFIIEαの酸性領域との結合に必要な領域であり、転写開始から伸長への移行段階に重要な領域であることを、以前に我々は報告している。DSIFとp62の欠失変異体による結合実験を行った結果、p62 PHドメインを含む変異体と結合した。TFIIEα酸性領域とp62 PHドメインの結合は、DSIFのサブユニットであるSPT5の酸性領域により競合的に阻害された。これらの結果は、転写開始から伸長への移行過程において、PIC内でTFIIHのp62が足場となって、TFIIEとDSIFの入れ替わりを調節している可能性が示唆された。
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