研究課題/領域番号 |
18K06657
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
岡田 太郎 神戸大学, 医学研究科, 准教授 (80304088)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | α-シヌクレイン / S1P / ガングリオシド |
研究実績の概要 |
α-シヌクレインによるS1P受容体シグナル経路の阻害メカニズムについて検討する中で,ガングリオシドの関与について調べるため,ガングリオシドのシアル酸を切り出すノイラミニダーゼと同時ににα-シヌクレインで細胞を処理したところ,α-シヌクレインによるS1P受容体シグナル系に対する阻害作用がキャンセルさせることを見出した。また,α-シヌクレインの作用はガングリオシド混合物の共添加によっても阻害された。一方で,α-シヌクレインの配列に存在するputativeなガングリオシド結合ドメインのみとGSTの融合蛋白質を細胞に添加すると,α-シヌクレインと同様にS1P受容体シグナル経路に対する阻害効果が認められた。これらの結果は,α-シヌクレインのガングリオシド結合ドメインが,S1P受容体シグナル経路阻害において必要十分な領域であることを示しており,申請者が本研究計画を申請する時点では仮説であった,α-シヌクレインが細胞膜上のガングリオシドを「奪う」ことにより,S1P受容体の脱パルミトイル化が起こり,それによりS1P受容体シグナル経路の阻害が起こるというメカニズムの検証が一歩進んだと考えている。 また研究の過程で,α-シヌクレインがCOS7細胞においてEGFによって引き起こされるマクロピノサイトーシスを阻害するという結果を得た。これに関してS1P受容体の関与を検討したところ,予想されたとおり,S1P1受容体の阻害によりマクロピノサイトーシスが抑制されるという結果を得ることができ,EGF受容体によりS1P1受容体が「trans activate」されることがマクロピノサイトーシスにおいて重要であるという新規の事実を見出し,現在論文投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書に記載した課題のうち,細胞内の他胞性エンドソーム上でのS1P受容体の活性化が細胞外のα-シヌクレインによって阻害される可能性については,既に明らかにし,論文報告している。また2019年度の研究結果により,α-シヌクレインに含まれるガングリオシド結合ドメインが,S1P受容体シグナル経路の阻害において重要な機能を担っていることが新たに明らかとなった。以前にガングリオシドのうちGM1を投与することによりパーキンソン病の症状が緩和するとの報告がなされているが,そのメカニズムについては全く不明であった。申請者らの研究結果は,細胞外α-シヌクレインがガングリオシド結合ドメインを介して神経細胞(おそらくはドパミン作動性神経細胞)に結合することが,細胞外α-シヌクレインの「毒性」を説明するという新たな仮説を提示するものである。また,研究の過程で,増殖因子受容体(EGF)刺激時に産生したS1Pにより細胞膜上のS1P受容体が活性化し,それがマクロピノサイトーシスにおいて重要な機能を担っているという新たな機構も見出した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画ではパルミトイル化酵素DHHC5をα-シヌクレインが阻害するという仮説を示すことになっている。これについては,in vitroでの酵素活性測定系の構築を行っているところであり,何とかして残りの研究機関にきちんとした酵素学的な結論をつけたいと考えている。パルミトイル化酵素測定系の課題としてはラジオアイソトープを使った実験となるが,細胞レベルと違いin vitroではパルミトイルCoAの放射活性体が必要となる。これは購入可能ではあるが非現実的な価格のため,パルミチン酸から合成しており,この過程の収率が悪いことが現時点でのネックとなっている。この部分を改良するとともに,全く別の測定系として,最近広く使われるようになってきたクリックケミストリーを用いて,non-RIで測定する系の構築も試みている。 In vitroでのパルミトイル化酵素の活性測定については全く先行研究がないわけではないものの,依然として至適な測定条件は不明であり,まして本研究では最大活性が見られれば良いというわけではなく,α-シヌクレインによる阻害効果を観察したいため,それが見られる測定条件の構築をなるべく早期に成功させたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在パルミトイル化酵素DHHC5の抗体作成を外注しており,それが4月以降の納品になることが確定したため,その分の金額を残しておいた。
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