研究課題
これまでに我々は、V(液胞型)-ATPaseのプロトン輸送路を形成するa3イソフォームが、破骨細胞への分化に伴い、GDP型Rab7と結合することでRab7をリソソームへリクルートすることを示唆した。その後GDP型Rab7はGEF(GTP/GDP交換因子)により活性化され、微小管に沿ったリソソームの輸送が開始すると考えられる。Rab7を後期エンドソームへ回収するGEFとしてMon1/Ccz1が知られている。そこで、a3とGDP型Rab7の結合に対するMon1やCcz1の影響を検討するために、HEK293T細胞にMon1あるいはCcz1をFLAG-a3、V5-Rab7と共発現させ、FLAG抗体で免疫沈降した。免疫沈降されるRab7の量は、Ccz1の共発現では変わらなかったが、Mon1の発現により増加した。また、a3とRab7の結合複合体には、Mon1やCcz1が含まれていることを明らかにした。破骨細胞の分泌リソソームにおいて、Mon1/Ccz1がa3と結合することによりリクルートされている可能性がある。現在、a3を欠損した破骨細胞を用いて、Mon1やCcz1の分泌リソソームへのリクルートにa3が関与しているか否かを検討している。さらに、分泌リソソームの輸送において、V-ATPaseが形成する酸性環境が果たす役割について検討した。V-ATPaseの阻害剤であるバフィロマイシンA1の存在下では、分泌リソソームの輸送は起きなかった。この阻害剤は、GDP型Rab7とa3の結合や、Rab7の活性化には影響しなかったが、GTP型Rab7のリソソームへの局在を阻害した。V-ATPaseが形成する酸性環境は、活性型Rab7が安定してリソソームへ局在するために必要であると考えられる。こうした研究により、V-ATPaseが関与する分泌リソソームの機構の全容解明に近づきつつある。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題の目的の1つは、破骨細胞における分泌リソソームの細胞内輸送の機構解明である。H30年度の我々の研究成果は、分泌リソソームの輸送におけるMon1/Ccz1や酸性環境の関与を示唆するものであり、分泌リソソームのメカニズムの全容解明に大きく近づいたと考えている。一方で、破骨細胞での知見をもとに、オルガネラ輸送におけるV-ATPaseの普遍的機能の解明を目指しているが、H30年度はそこまで研究を発展させることはできなかった。以上の状況により、おおむね順調な進展とした。
破骨細胞における分泌リソソームの分子機構の解明を目指して、Mon1/Ccz1が分泌リソソームに局在するか否か、局在するのであれば、その局在にa3が必要であるかを検討する。また、Mon1/Ccz1やa3の変異体を作製して、結合様式を解析する。転移能の高いがん細胞において、a3が形質膜に高発現していることが報告されており、分泌リソソームと同様の機構が機能している可能性がある。メラノーマや乳がん細胞などについて、この可能性を検討する。オルガネラ輸送におけるV-ATPaseの普遍的機能の解明を目指して、a1やa2イソフォームもa3と同様にRabファミリーと結合してオルガネラ輸送に関与するのか、具体的にどのような現象において関与するのかを検討する。
H30年度は、a3とGEFが結合することを免疫沈降実験により発見したため、結合関連の実験を精力的に進めた。それに伴い、高価な分化誘導試薬を必要とする破骨細胞への分化誘導実験が予定より少なくなり、研究費の繰り越しが生じた。今年度は、H30年度に実施できなかった分化誘導実験も併せて行う予定なので、繰り越し分の研究費も併せて使用する。
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