メタボリックシンドロームの発症においては、脂肪組織の慢性炎症とそれに伴うインスリン抵抗性の惹起が深く関わっている。また、高脂肪食の摂取が視床下部における種々のストレスを介してレプチン抵抗性を生じ、摂食・代謝調節機能異常へとつながることが示されているが、その詳細な分子機序には不明な点が多い。本計画は、高脂肪食摂取により誘導される視床下部ストレス・炎症において、GM3関連ガングリオシドの発現変化およびレプチン受容体およびメラノコルチン受容体を介した摂食・代謝調節シグナルに与える影響について検討するものである。モデルとして高脂肪食誘導性肥満KKマウスにおいて、顕著な体重増加、血糖値上昇とともに視床下部炎症の指標として炎症性サイトカインTNF-α遺伝子の発現上昇が確認できた。しかし、視床下部におけるガングリオシドの明らかな発現変化は見られなかった。一方で、主要なガングリオシドを欠損するKK/GM3合成酵素ノックアウト(GM3S KO)マウスでは高脂肪食負荷による体重増加、血糖値上昇が抑制されており、視床下部のTNF-α遺伝子の発現上昇が有意に抑制されていた。ガングリオシドの欠失が、脳内の免疫担当細胞であるミクログリアの活性化に与える影響を検討するため、ミクログリア細胞株においてGM3S KO細胞を作製し、Toll様受容体(TLRs)の活性化を各種リガンド刺激後の培養上清中のサイトカイン分泌量により検討した。GM3S KO細胞においては、リポ多糖およびHMGB1といったTLR4リガンドによる活性化が抑制されていた。以上の結果から、ガングリオシドがミクログリアの活性化調節を介して視床下部炎症の惹起を調節していることが示唆された。
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