研究実績の概要 |
アルツハイマー病(AD)、プリオン病、レビー小体型認知症(DLB)などの神経疾患では、疾患関連タンパク質(それぞれβアミロイドタンパク質、プリオンタンパク質、αシヌクレイン)のコンフォメーション変化によるアミロイド構造形成に伴う異常蓄積と神経毒性が発症に重要な役割を果たす。これらのタンパク質はシナプスに局在しており、亜鉛、銅などの微量金属もシナプスに高濃度で存在している。また、過剰な亜鉛による神経細胞死は脳血管性認知症の発症に関与している。そこで、シナプスにおけるアミロイド形成タンパク質の構造や機能に及ぼす微量金属の影響を明らかにすることを目的として研究を行った結果、アミロイド形成タンパクの多量体化が金属によって異なることをサイズ排除HPLCを用いて明らかにし、これらの結果を基に、シナプスにおけるプリオンタンパクの役割と微量金属の関与についての仮説を提唱している(Kawahara et al., IJMS, 2021)。さらに、三次元組織培養法に依る新たな神経デバイスを確立し、毒性試験のためのスクリーニング系を確立した(Kato-Negishi et al., Sci. Rep 2022) 。また、亜鉛による神経細胞死を詳細に解析した結果、微量の銅の共存によって毒性が大きく増強されることを見出し、小胞体ストレス系やミトコンドリアにおけるJNK経路の関与などを明らかにしているが、さらにセレノメチオニンが毒性を軽減することからROS産生の関与を明らかにした(Tanaka et al., Neural Regen Res 2022)。これらの結果を基に、脳血管性認知症発症には銅と亜鉛の共存が大きく関与するという仮説を提唱している(Kawahara et al., IJMS 2021)。これらの結果は、脳血管性認知症や他の神経疾患の予防・治療法開発のために重要な結果である。
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