研究課題
乳がんの脅威は、初発部位にはなかった性質を獲得し、高い腫瘍形成能力および治療耐性能力を発揮しながら悪性化を進展することである。これまで、亜鉛トランスポーターZIP6は乳がんの悪性化の運命を支配することを明らかにしてきた。しかし、乳がんにおける亜鉛と亜鉛トランスポーターのネットワーク、特に、亜鉛イオンの標的分子の詳細は不明であった。本研究では、乳がんの悪性化プロセスにおける亜鉛トランスポーターZIP6を介した亜鉛シグナルの解明を目的とし、乳がんの悪性化に密接に関与している固形腫瘍内部の低酸素環境における乳がん細胞の生存能力を制御する仕組みについて検討した。乳がん細胞MCF-7を3次元的に培養した結果、形成したコロニーの内部に低酸素環境が存在することを明らかにした。また、低酸素条件下では、MCF-7の細胞死は抑制され、低酸素誘導因子HIF-1の活性を伴って著しく高い生存能力を示した。細胞透過性亜鉛特異的キレート剤の添加は、HIF-1の活性とコロニーの形成、低酸素条件下での生存率を著しく減少させたことから、亜鉛イオンがHIF-1の活性を介して低酸素環境耐性を示す可能性を明らかにした。さらに、MCF-7の高い低酸素環境適応性には、ZIP6の発現低下を発信源とするZIP6とZIP7の発現量の比率が重要であることをZIP6特異的ノックダウン細胞の解析から明らかにした。一方、個体レベルでは、乳がん腫瘍の大きさと血清中亜鉛濃度は正の相関関係を示す傾向にあり、腫瘍の形成を抑制する治療によって、その相関関係は消失した。これは、乳がんの悪性化プロセスと亜鉛は密接に関係していることを示しており、現在、低酸素環境と亜鉛シグナルを個体レベルで検討している。以上のことから、乳がん悪性化のプロセスはZIP6を起点とする亜鉛ネットワークにより支配され、その標的分子の一つとしてHIF-1を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、乳がん悪性化のプロセスはZIP6を起点とする亜鉛ネットワークにより支配され、その標的分子の一つとしてHIF-1が重要であることを明らかにした。本研究成果は、乳がん悪性化の仕組みの解明とその関連分子を介した新戦略の開発に繋がる可能性があると考える。
ZIP6を起点とする亜鉛ネットワークが、乳がん悪性化プロセスに対して、どのように統御するのか明らかにするため、細胞モデルおよびin vivo担がんモデルを作製し、亜鉛シグナルの機能的役割について解析する。細胞モデルとしては、Tet誘導shRNAシステムを用いてZIP6を可逆的かつ特異的に発現制御できる細胞を構築し、亜鉛特異的蛍光プローブを用いて亜鉛の細胞内動態を捉えながら、標的分子との関連を解析する。さらに、そのときの細胞内亜鉛ネットワークをライブイメージング技術により時空間的に解析する。同定できた分子について、in vivo担がんモデルにおいても、動態を把握する。
2018年度、乳がん細胞モデルを用いて、低酸素環境における亜鉛動態の解析を行い、その結果を基に動物実験を行うとともに学会発表する予定であった。しかし、動物実験の一部分について、悪性度の高いがんの個体の状況から、データの取得が不可能な事態が生じた。実験計画の変更と計画していた学会発表を行わなかったため、未使用額が生じた。動物モデルの詳細な解析とその研究成果の発表に関しては、次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てる。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (19件) (うち国際学会 5件、 招待講演 2件)
Biological and Pharmaceutical Bulletin
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