研究課題
前年度までに、スフィンゴミエリン(以下,SM)が細胞膜外層から細胞膜内層にフリップするために必要な因子として、10個程度の遺伝子を同定した。本年度は、このうち最も強い表現型を示した1つの因子について解析を行った。まず、リコンビナントタンパク質を作製し、人工膜を用いたin vitroの系での解析を行った。細胞膜に局在する脂質との結合能を調べた結果、リコンビナントタンパク質はPIP2に特異的に結合することが明らかになった。人工膜の形状を電子顕微鏡で調べた結果、リコンビナントタンパク質はPIP2依存的に人工膜のtubule化を引き起こすことがわかった。蛍光ラベルしたスフィンゴミエリンを人工膜中に取り込ませ、リコンビナントタンパク質を加えると、PIP2依存的にスフィンゴミエリンのフリップが促進されることがわかった。このこれらの結果を考え合わせると、本研究で同定されたタンパク質は、PIP2と結合し、膜を変形させ、SMのフリップを促進していることが示唆された。次にin vivoでの機能を調べるために、細胞における表現型を調べた。CRISPR/Cas9によるノックアウト株と過剰発現株を用いた。フリーズフラクチャーによる電子顕微鏡観察においてSMの分布を調べた結果、ノックアウト株では異常は認められなかったが、過剰発現株では細胞膜外層のSMが少なくなっていることがわかった。また、過剰発現株では、細胞膜内層においてtubule化したと考えられる痕跡が観察された。これらの電子顕微鏡の観察結果は、前述のin vitroの実験結果を裏付けるものであり、実際の細胞中でも膜を変形させ、SMのフリップを促進していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
最も強い表現型を示した1つの因子のリコンビナントタンパク質が、in vitroでスフィンゴミエリンのフリップを促進する活性を有することがわかった。また、in vivoでも同様な活性を有することが示唆された。フリーズフラクチャー電子顕微鏡解析は、連携研究員の村手研究員がフランスで系を立ち上げたが、研究機関の立ち入り禁止のため、途中で止まっている。
今回得られた因子はシャルコー・マリー・トゥース病の原因遺伝子である。次年度は生化学的な実験を行い、シャルコー・マリー・トゥース病の変異の機能解析を行う。変異型リコンビナントタンパク質を作成し、PIP2との結合能、人工膜の形状・フリップの活性を測定する。また、フランスの状況次第ではあるが、フリーズフラクチャー電子顕微鏡解析を行うことにより、変異型タンパク質を発現した細胞における表現型を調べる。
新型コロナウイルスのため、研究機関の閉鎖により、実験が遅れた。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
FASEB J.
巻: Nov;33(11) ページ: 12750-12759
doi: 10.1096/fj.201900283R