研究実績の概要 |
ゲノム編集技術によって、高効率に欠失、置換、及び、挿入変異できるようになった。また、ゲノムの「組換え安全領域(セーフハーバー)」が報告されて以来、ゲノム編集技術は、医療や新しい食料開発などの領域で大いに期待される存在となった。しかし、①セーフハーバーへ欠失、置換あるいは挿入される遺伝子の配列、長さ、組合わせが、ヒストンのメチル化やアセチル化等のエピゲノムへ及ぼす影響を調べた研究はない。②また、転写因子などの任意のゲノムDNA結合タンパク質へ及ぼす影響を調べた例も見当たらない。そこで本研究では、(i)タンパク質と結合していないDNAを分解する酵素(MNase)と、ゲノムDNA結合タンパク質に特異的なIgG抗体と結合するプロテインAとを架橋したユニバーサルプローブを創製し、(ii)このプローブを用いて、遺伝子の欠失、置換、及び、挿入変異がゲノムDNA結合タンパク質の有する遺伝情報へ及ぼす影響を単一細胞レベルで追跡(動的モニタリング)する方法を開発することを検討する。我々は、活性型ヒストン修飾H3K4me3と抑制型ヒストン修飾H3K27me3を検出するプローブを創製し、創製したプローブのエピゲノム修飾への特異性と感度の高さを証明した(Ku, Nakamura, et al., Nature Methods, 16, 323-325, 2019)。本法をscChIC-Seq法と命名し、Protocol Exchangeで公開した(doi:10.1038/protex.2019.011)。今後は、scChIC-Seq法を用いて、ゲノムDNA結合タンパク質の位置と量を経時的・網羅的に解析して研究を継続する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、ゲノム編集が遺伝情報へ及ぼす影響を網羅的にかつ経時的に解析し、動的モニタリングすることを目的としている。初年度は、単一細胞単位で解析が可能で、汎用性と再現性に優れる新しい手法(scChIC-Seq法)を開発するに至った。(Nakamura, et al., Protocol Exchange [https://doi.org/10.1038/protex.2019.011]) Ku, W. L.*, Nakamura, K.*, Gao, W.*, Cui, K., Hu, G., Tang, Q., Ni, B., Zhao, K. Single-cell chromatin immunocleavage sequencing (scChIC-Seq) to profile histone modification, Nature Methods, 16, 323-325, 2019 (*Equally contributed) 我々は、HEK293細胞のゲノムセーフハーバーとして汎用されている領域にCRISPR-Cas9で切断したクローンを作成し、scChIC-Seq法を用いて解析した。ゲノムDNAを編集することで、その何らかの記録がDNA結合タンパク質の様式に残っていることを期待した。現在のところ、ゲノム編集前後におけるH3K4me3とH3K27me3のエピゲノム修飾パターンには、顕著な変化は観察されていない。scChIC-Seq法は、単一細胞毎に異なる細胞の表現型についての解析が可能であり、今後はそれらについても統計的な解析を行っていく。
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