研究課題/領域番号 |
18K06682
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
渡邊 幸秀 筑波大学, 医学医療系, 助教 (40618534)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 特殊環状ペプチド / 抗腫瘍薬 / TMEPAI/PMEPA1 / 癌関連タンパク質 |
研究実績の概要 |
TMEPAIは様々ながん組織にて発現が亢進しており、乳がんや肺がん細胞のTMEPAIをノックダウンすると、足場非依存的な増殖能やヌードマウスへの皮下移植腫瘍形成能が低下することから、TMEPAIは腫瘍形成促進に働くと考えられている。TMEPAIはアイソフォーム間で異なる10-30アミノ酸の細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、約220アミノ酸の細胞内ドメインから成り、細胞内ドメインには2つのPYモチーフとSmad interaction motif (SIM)を有する膜タンパク質であり、様々な細胞内シグナル伝達の制御に関わることが報告されている。 本課題では、TMEPAIがどのように腫瘍形成に関わるのか機能メカニズムを明らかにすると共に、TMEPAIに結合する特殊環状ペプチドを探索し、それら特殊環状ペプチドのTMEPAIの機能阻害活性や抗腫瘍作用を評価し、新たな抗腫瘍バイオ医薬品の開発を目的とした。 TMEPAIの腫瘍形成促進のメカニズムとして、通常培養下ではTMEPAIをノックアウトしても増殖能に違いが認められないものの、免疫不全マウスへの移植腫瘍は有意に小さくなり、TMEPAIノックアウト乳がん細胞では、血管新生に関わるVEGFなどの発現が低下していることから、TMEPAIは腫瘍血管新生にも影響することが考えられる。さらに、トリプルネガティブ乳がん細胞株を用いた研究では、TMEPAIの発現アイソフォームを同定し、TMEPAI KOにより低下したスフェア形成能やコロニー形成能がTMEPAIを再発現させることで回復することを示した。さらにPYモチーフ、SIM変異体を再発現した細胞では腫瘍形成能が一部分しか戻らないことから、PYやSIMの腫瘍形成への重要性を明らかにした。 TMEPAIに結合する特殊環状ペプチドは複数の候補分子が得られ、合成を行い、現在機能を検討している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TMEPAIの腫瘍細胞における役割に解析については、肺がんや乳がん細胞を用いてRNAiによるノックダウンやCrispr/Cas9を用いたノックアウト細胞を樹立し、TMEPAIの発現を低下させることで、ヌードマウスへの移植腫瘍能やin vitroスフェア形成、コロニー形成能が低下することにより、TMEPAIが腫瘍形成に関わることを示した。さらにノックアウト細胞にTMEPAIの各ドメインの変異体を再発現させることで、TMEPAIのPYモチーフやSIM領域の腫瘍形成における重要性を明らかにした。 TMEPAIに結合する特殊環状ペプチドの探索については、TMEPAIおよび、そのファミリー分子であるLDLRAD4の細胞内ドメインタンパク質を大腸菌にて大量合成し、RaPID (Random non-standard peptide integrated discovery)システムを用いて、TMEPAIおよびLDLRAD4に結合する特殊環状ペプチドの探索を行った。TMEPAIとLDLRAD4の細胞内ドメインの相同性は67%であり、特にPYモチーフやSIMを含む領域の相同性が高く、機能的にも同様の働きをすることから、TMEPAIとLDLRAD4の共通性の高い領域に結合する特殊環状ペプチドを得るため、スクリーニングの際にLDLRADで1次スクリーニングを行ったライブラリーを用いてTMEPAIでの2次スクリーニングを行った。最終的に数種類の特殊環状ペプチドが得られ、ペプチド合成および精製を行い、TMEPAIやLDLRAD4との結合をBLItzシステムにより確認した。
|
今後の研究の推進方策 |
TMEPAIに特殊環状ペプチドが結合することが確認されたことから、今後は特殊環状ペプチドに蛍光色素ラベルやビオチンを付加した特殊環状ペプチドを合成し、TMEPAIおよびLDLRAD4との結合性評価を、細胞染色法、共沈殿法等を用いて行う。TMEPAIはPYモチーフを介してNEDD4と結合し、SIMを介してSmad3と結合することが知られているので、NanoBiTシステムを用いたタンパク間結合を定量化できるシステムを用いて、特殊環状ペプチドがTMEPAIとそのパートナー分子のタンパク質間相互作用を阻害するか検討する。 特殊環状ペプチドは中分子であり、膜透過性はアミノ酸配列に依存しているため、同時に特殊環状ペプチドの膜透過性についても検討する。もし膜透過性が低い時には、特殊環状ペプチドの尾部に膜透過性のあるタンパク質を付加することで膜透過性を改善することやタンパク質トランスフェクション試薬を用いて、細胞内に導入する。TMEPAIの機能阻害作用が認められた場合、がん細胞のスフェア形成試験やin vivo移植腫瘍形成試験を行い、特殊環状ペプチドの抗腫瘍作用を検討する。さらに、特殊環状ペプチドとTMEPAIを共結晶化し、構造を解析することや特殊環状ペプチドのアミノ酸配列を最適化することで、結合能が高く、抗腫瘍作用に有効なペプチド医薬品の実現を目指す。
|