特発性肺線維症 (IPF) は、肺が線維化して呼吸困難を来たす難病であり、診断後の平均生存年数が約3年と非常に短い。そのため、IPFを治療するための新たなターゲット分子を発見し、効果が高く、副作用の少ない治療薬を開発する事が重要である。IPFの発症・増悪には、活性酸素などによる肺胞上皮細胞傷害をきっかけとした肺線維芽細胞の異常増殖や活性化 (コラーゲン過剰産生など) が大きく関与する。これまでに、既承認薬ライブラリーを用いたスクリーニングを行い、肺胞上皮細胞に傷害性を示さず、線維芽細胞選択的に細胞死を誘導する化合物(既承認医薬品)を発見している。1-2年目の解析から、候補薬が既存のIPF治療薬であるピルフェニドンやニンテダニブに比べて、IPF動物モデルでの肺線維化や呼吸機能低下を有意に改善することを見出した。また、ピルフェニドンやニンテダニブで見られた肝臓における副作用が、候補化合物の投与ではほとんど見られないことを見出している。そこで、今年度は既存薬との併用効果を解析した。ピルフェニドンやニンテダニブと候補薬の併用によりIPF動物モデルでの線維化や呼吸機能低下の改善が見られたが、併用することによる相乗効果は見られなかった。相乗効果は見られなかったが、併用することによる悪影響も見られなかったので、臨床で使用する場合の併用は問題ない可能性が示唆された。また、候補化合物が線維芽細胞選択的に作用する機構として、線維芽細胞に発現するレセプターや細胞周期調節因子が関連することを示唆した。2021年度以降はターゲット分子の候補に関する詳細な解析を実施し、候補化合物が線維芽細胞選択的に作用する機構の全体像を解明したい。また、本研究結果を元に、新規IPF治療薬の開発に繋げたい。
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