研究実績の概要 |
PIK3CA-related overgrowth spectrum (PROS)は、PIK3CA遺伝子の活性化変異で発症し、出生時あるいは出生直後よりモザイク性の肥大が認められる過成長症候群のひとつである。我々はPROS症例を経験し、病変組織でPIK3CAのヘテロ接合性モザイク変異(c.3140A>G, [p.H1047R]) を同定した。患者由来のファイブロブラストを樹立して薬剤スクリーニングを行った結果、メトホルミンが小児でも使用可能なPROSの候補治療薬であると考えられた。しかし、メトホルミンが細胞内のシグナル伝達や代謝に及ぼす影響は不明である。昨年度までに、PIK3CA c.3140A>G変異を有するヒト乳がん由来のMDA-MB-453細胞とPIK3CA変異を持たないがん由来の株化細胞にメトホルミンを投与したところ、PI3K/AKT/mTORシグナル伝達系に影響を及ぼすいくつかの受容体遺伝子で発現変動が認められたが、その種類は細胞ごとに異なることを明らかにした。そこで、本年度はPROS患者を想定したPIK3CA変異のみを有する細胞に特異的な応答を明らかにするため、ゲノム編集によって健常者ファイブロブラストにPIK3CA c.3140A>Gおよびc.3140A>T変異の導入を試みた。その結果、変異の出現頻度が高いc.3140A>T変異をヘテロまたはホモで有する細胞が得られた。PIK3CA c.3140A>T変異細胞は、PROS患者由来ファイブロブラストと類似した形態を示した。期間内には、ゲノム編集によって作出した細胞のクローン化までしかできなかったが、今後、PIK3CA変異のみを有する細胞ともとになった健常者ファイブロブラストを比較することによって、PIK3CA変異がメトホルミン投与時の受容体遺伝子の発現変動に及ぼす影響を確認する。
|