研究課題/領域番号 |
18K06697
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
堀之内 孝広 北海道大学, 医学研究院, 講師 (20307771)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | カルシウム感受性受容体 / エンドセリン受容体 / 血管内皮細胞 / 内皮型一酸化窒素合成酵素 / カルボニル化 / プロテインキナーゼC / カルシウムシグナル |
研究実績の概要 |
肺動脈性肺高血圧症の病態形成におけるポリアミン系の病態生理的役割を明らかにするため、ポリアミンの代謝産物であるアクロレインが、血管内皮細胞と血管平滑筋細胞に及ぼす影響について検討した。 ヒト血管内皮細胞に、アクロレインを処理したところ、濃度依存的な細胞膜傷害が認められた。そして、アクロレインによる細胞膜傷害は、プロテインキナーゼC阻害薬及び細胞内Ca2+キレート薬によって、有意に抑制された。これらのことから、アクロレインは、プロテインキナーゼC及び細胞内Ca2+依存性に、細胞膜傷害を惹起することが明らかになった。 次に、アクロレインが、プロテインキナーゼCを活性化するか明らかにするため、プロテインキナーゼCの基質であるMARCKS (myristoylated alanine-rich C kinase substrate) のリン酸化レベルを解析した。ヒト血管内皮細胞に、アクロレインを60-240分間処理したところ、MARCKSのリン酸化レベルが顕著に上昇し、この上昇は、プロテインキナーゼC阻害薬によって、完全に抑制された。この結果は、アクロレインによるプロテインキナーゼCの活性化を介した細胞膜傷害を支持するものである。 血管平滑筋細胞においても、アクロレインによるプロテインキナーゼC依存性の細胞膜傷害が認められた。また、アクロレインを前処理した摘出ラット胸部大動脈リング標本において、α1-アドレナリン受容体やエンドセリン受容体を介した血管平滑筋の収縮反応が消失した。これらのことから、アクロレインは、血管組織を傷害し、血管収縮能を喪失させることが明らかになった。 以上の結果から、アクロレインは、血管内皮細胞や血管平滑筋細胞において、プロテインキナーゼCの活性化を介した細胞膜傷害を惹起することによって、血管張力制御機構の破綻をもたらすと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の最終目標は、肺動脈性肺高血圧症の病態形成におけるポリアミン系の関与を明らかにすることである。2018年度は、ポリアミンの代謝産物であるアクロレインが、ヒト血管内皮細胞において、内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の不活性化と一酸化窒素産生の減少を引き起こすことを明らかにした。2019年度は、アクロレインによって惹起される血管内皮傷害に関与するシグナル分子の同定を試みた。 その結果、アクロレインによる細胞膜傷害に関与するシグナル分子として、プロテインキナーゼCと細胞内Ca2+を同定した。そして、アクロレインが、プロテインキナーゼC依存性に、プロテインキナーゼCの基質であるMARCKS (myristoylated alanine-rich C kinase substrate) のリン酸化を促進することを明らかにした。さらに、プロテインキナーゼCと細胞内Ca2+は、eNOSの活性化に関与することを見出した。これらの知見から、アクロレインは、プロテインキナーゼCの活性化因子であり、アクロレインによるプロテインキナーゼCと細胞内Ca2+の活性化は、eNOSの活性化ではなく、細胞膜傷害に寄与していることを示唆した。同様に、血管平滑筋細胞において、アクロレインは、プロテインキナーゼC依存性に細胞膜傷害を惹起し、アクロレインを処理した摘出血管平滑筋組織では、その収縮能力が著しく損なわれていることを見出した。 これらことから、血管平滑筋細胞や血管内皮細胞を傷害するアクロレインは、血管平滑筋の弾力性低下や血管内皮細胞の機能不全を介して、肺動脈性肺高血圧症の発症に寄与しうると考えられた。 この様に、アクロレインによる血管機能低下と肺動脈性肺高血圧症の病態形成の関連性が解明されつつあることから、本研究課題は、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
アクロレインによる内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の不活性化の分子メカニズムについて、分子薬理学的手法を用いて検討する。なお、標的とする分子は、NO産生を担うeNOS、eNOSの活性化に関与するカルシウム感受性受容体・プロテインキナーゼC・AKT、eNOSの不活性化に関与するフォスファターゼ、ならびに、これらの分子と相互作用する足場タンパク質である。そして、アクロレインが、これらシグナル分子の機能や分子間相互作用に及ぼす影響を明らかにする。 また、肺動脈性肺高血圧症の病態形成に、生体内で発生したアクロレインが関与するか明らかにするため、モノクロタリン誘発性肺高血圧ラットを用いて、肺組織におけるカルボニル化タンパク質の蓄積量を評価する。さらに、摘出ラット肺外動脈リング標本を用いた張力測定実験を行い、肺高血圧症発症による血管収縮応答及び血管内皮依存性弛緩応答の変化を評価する。
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