研究課題/領域番号 |
18K06698
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
林 周作 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 助教 (10548217)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 炎症性腸疾患 / 腸管マクロファージ / IL-10 / Fatty acid synthase / IBD再燃モデル / DARTS / 再燃予防 / 長期寛解維持 |
研究実績の概要 |
本研究では、炎症性腸疾患(IBD)の治療において再燃を予防し、長期寛解維持を実現する有用な治療薬を開発することを目的に、腸管粘膜のマクロファージにおけるインターロイキン(IL)-10産生を亢進させる薬物の探索研究から見出した生薬由来化合物ベルベリンの薬理作用について研究を行った。 今年度は、これまでに報告されていないIBD再燃モデルを作製し、本モデルに対するベルベリンの効果を評価した。IBD再燃モデルは、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)の反復投与によって作製し、DSSの非投与期間における回復期(寛解に相当)にのみベルベリンを投与し、DSSの再投与によって認められる大腸炎症状(再燃に相当)について溶媒投与群と比較した。ベルベリンの投与終了時点では、溶媒投与群とベルベリン投与群の大腸炎症状に差は認められなかったが、ベルベリン投与によって大腸粘膜構造の病的変化が有意に改善された。また、ベルベリン投与群では、再燃期間における大腸炎症状の再発と最終日での大腸粘膜構造の病的変化が有意に抑制された。 さらに、ベルベリンがマクロファージのIL-10産生を亢進するメカニズムを解明するため、ベルベリンがマクロファージにて直接結合するタンパク質の同定を試みた。マウス骨髄造血幹細胞由来マクロファージ(BMDMs)から抽出したタンパク質とベルベリンを反応させ、電気泳動で展開後、質量分析を行い、Fatty acid synthase(FAS)を候補タンパク質として同定した。さらにFAS阻害薬セルレニンは、BMDMsでのベルベリンによるIL-10産生の亢進を濃度依存的かつ有意に抑制した。 ベルベリンは、IBD再燃モデルに対して有効であり、その作用機序として腸管マクロファージでのFAS活性化を介したIL-10産生の亢進による腸管粘膜の修復促進が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでの炎症性腸疾患(IBD)治療薬の開発は、過剰な炎症を抑制することを目的に行われており、再燃予防や長期寛解維持を目的とした基礎研究は少なく、再燃を適正に評価するIBD病態モデルは確立されていなかった。 今年度に実施した研究において、ベルベリンの薬効を評価可能なIBD再燃モデルを確立した。さらに、Drug affinity responsive target stability(DARTS)法を用い、マクロファージにおいてベルベリンが直接結合するタンパク質としてFatty acid synthase(FAS)を同定し、実際にベルベリンがFASを介してマクロファージでのIL-10産生を亢進することを薬理学的に示した。以上のことから、当初の計画を達成しつつある。 しかし、より質の高い研究成果を得るために国際共同研究先(アメリカ合衆国)での研究を予定していたが、COVID-19の影響で計画が遅延し、本研究課題の補助事業期間を延長したため、進捗状況はやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ベルベリンが腸管マクロファージのインターロイキン(IL)-10産生を亢進するメカニズムについて詳細に解明するために、以下の研究を行う予定である。 1. ヒト炎症性腸疾患(IBD)生検サンプルを用い、腸管マクロファージにおけるFatty acid synthase(FAS)の発現についてin situハイブリダイゼーション(RNAscope) を行い解析する。 2. ベルベリンがマクロファージにおいてFASの活性化を介してIL-10産生を亢進するかを明らかにするために、FASの活性化によって合成されるコレステロールのレベルに対するベルベリンの効果について検討を行う。 3. マクロファージにおけるFAS発現をRNAiによりノックダウンし、ベルベリンによるIL-10産生の亢進が抑制されるかを解析する。 さらに、ベルベリンによる再燃予防を介した長期寛解維持作用には、傷害された腸管粘膜の修復促進が関与することを証明するために、大腸粘膜の傷害修復in vivoモデルを用いベルベリンの効果を評価する。すなわち、マウス大腸粘膜に大腸内視鏡下にて生検法による粘膜傷害を作製し、傷害粘膜の治癒をベルベリン投与が亢進するかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者がアメリカ合衆国にて国際共同研究中であり、COVID-19による研究計画の遅延のため、次年度使用額が生じた。
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