酸化的リン酸化によるエネルギー産生はミトコンドリアの最も重要な機能であるが、同時に、ミトコンドリアはROSの主な発生源である。代謝に伴うROS発生については、神経変性疾患をはじめとする種々の加齢性疾患の発症要因の一つとされている。ところが、ROS発生から疾患の発症に至るまでの一連の分子メカニズムには、未だ未解明な点が多く残されており、解決すべき基本課題となっている。申請者はこれまでミトコンドリアc-Srcによる呼吸鎖複合体IIのsuccinate dehydrogenase A (SDHA)サブユニットの215番目のチロシンリン酸化がROS産生の抑制に必須の役割を持つことを見出してきた。本研究では、アストログリア細胞群特異的SDHAY215F変異体発現トランスジェニック(Tg)マウスを用いて、ミトコンドリア活性酸素種(ROS)に起因するアストログリア細胞活性化モデルを構築し、疾患発症に関与する新規分子の同定および機能解析を行うことを目的とした。本年度は、アストログリア細胞群特異的SDHAY215F変異体発現Tgマウスのから同定した新規疾患候補分子(3種)のin vivo機能解析およびアストログリア細胞機能制御する粘菌由来低分子化合物(15種)の探索を行った。アストロサイト発現疾患候補分子をクローニングしレンチウイルスに組込み、マウスの黒質および線条体への接種を行った。これらの分子の内2種は、チロシン水酸化酵素(TH)陽性細胞数を減少させた。残りの1種については、薬剤性パーキンソン病モデルであるMPTP投与によるTH陽性細胞数の減少を抑制した。さらに、粘菌由来低分子化合物プレニルキノリンカルボン酸誘導体(PQA)の中から3種のPQA化合物の腹腔内投与によりMPTP誘発性ドパミン神経細胞死が抑制された。
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