研究課題/領域番号 |
18K06703
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研究機関 | 北海道科学大学 |
研究代表者 |
高栗 郷 北海道科学大学, 薬学部, 准教授 (90623710)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 動脈硬化 / 内膜肥厚 / YAP1 / 血管平滑筋細胞特異的YAP1ノックアウトマウス / 腹部大動脈瘤 |
研究実績の概要 |
動脈硬化に基づく心血管疾患は、日本の超高齢化社会が続く現状を考えると、まずます増加することが予想される。そのため、動脈硬化の発症・進展における病態の解明は急務となっている。我々は、Hippo経路(MST1/2/-LATS1/2)関連分子であるYAP1が血管平滑筋細胞の増殖と細胞死を制御することを報告している。動脈硬化病変で観察される内膜肥厚の形成は、血管平滑筋細胞の増殖と細胞死が引き起こされた結果生じることが報告されている。このような背景から、我々は内膜肥厚形成におけるYAP1の生理的役割を明らかにすることを目的とした。まず、我々は時間・空間的に血管平滑筋細胞でのYAP1の発現を調節可能なマウスを作成した(Myh11-Cre ERT2-YAP1 flox/flox)。この6週齢の雄のマウスに、タモキシフェンを5日間連続投与し2週間後、血管平滑筋細胞特異的にYAP1がノックアウトされることを蛍光免疫染色およびウエスタンブロッティングにより確認した。血管平滑筋特異的YAP1ノックアウトマウスを用い、頸動脈分岐部の完全結紮による内膜肥厚形成に対するYAP1の生理的役割を検討したところ、コントロールマウスに比べ、YAP1ノックアウトマウスは内膜肥厚形成が有意に抑制されていた。したがって、YAP1は動脈硬化にみられる内膜肥厚形成を促進させることが示唆される。現在、YAP1ノックアウトマウスがもたらした内膜肥厚抑制のメカニズムについて、炎症に着目しながら検討を進めている。さらに、予備実験ながらエラスターゼを用いた腹部大動脈瘤モデルマウスの病変部位において、YAP1の発現が増加することを見出した。このことから腹部大動脈瘤の形成におけるYAP1の生理的役割を明らかにすることを計画している。これらを明らかにすることで、Hippo経路およびその関連分子YAP1を標的とした動脈硬化および腹部大動脈瘤の新たな治療薬の確立に寄与したいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タモキシフェン誘導型CreERシステムを用い、時間・空間的に血管平滑筋細胞特異的にYAP1をノックアウト可能なマウスを作成し、内膜肥厚モデルを用いた検討からノックアウトマウスは内膜肥厚形成を有意に抑制することを見出した。このシステムを確立できたことから、内膜肥厚形成におけるYAP1の生理的役割を明らかにする本研究は加速できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
血管平滑筋細胞特異的YAP1ノックアウトマウスを用いて、内膜肥厚形成にかかわる細胞増殖シグナルや細胞死シグナル系に及ぼす影響を検討する。さらに、動脈硬化病変で惹起される炎症およびストレスといった現象に着目し、これらがYAP1を制御するのか、YAP1がこれらを制御するのかを検討し、炎症およびストレスを介した内膜肥厚形成におけるYAP1の役割を検討する。さらに、エラスターゼを用いた腹部大動脈瘤モデルマウスの病変部位において、YAP1の発現増加が見られたことから、腹部大動脈瘤の形成におけるYAP1の生理的役割を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月開催予定であった学会の旅費を計上していたが中止となり、急遽次年度早々に使用する試薬を購入したため次年度使用額が生じた。動脈硬化および腹部大動脈瘤におけるYAP1の生理的役割を明らかにするために、免疫染色に関わる抗体をはじめとする試薬類、動物の維持費に当てる予定である。 また、研究成果を発信するため、論文投稿費用および学会発表に関わる参加費および旅費に当てる予定である。
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