動脈硬化を基盤とする心血管疾患の発症は、高齢化に伴い、ますます増加することが予想されている。動脈硬化の進展(内膜肥厚)には、血管構成細胞である血管平滑筋細胞の増殖、炎症および細胞死などが関与している。我々は、Hippo経路(MST1/2-LAT1/2)に制御されるYAP1(yes-associated protein 1)が、血管平滑筋細胞の増殖と細胞死を制御することを見出しており、YAP1が動脈硬化形成に重要な役割をもつと考えた。まず、血管平滑筋特異的YAP1ノックアウトマウスを用い、頸動脈分枝部の完全結紮により惹起される内膜肥厚に対するYAP1の生理的役割を検討した。その結果、コントロールマウスに比べYAP1ノックアウトマウスの内膜肥厚形成および当該部位におけるマクロファージの浸潤が有意に抑制された。その一方で、内膜肥厚部位における炎症性サイトカインの発現が有意に増加していた。そこで、ラットより単離した血管平滑筋細胞を用いて検討したところ、YAP1をsiRNAによりノックダウンすると、TNF-αによるIL-6のmRNA発現が有意に増加した。これらの結果は、動脈硬化の病態形成において、YAP1が重要な役割を果たすことを示していることが示されたが、YAP1のノックダウンは血管局所の炎症を亢進させたことから、YAP1の発現のバランスが血管平滑筋細胞の恒常性維持に重要であることが示唆される。 現在、血管平滑筋特異的YAP1ノックアウトマウスとApoE欠損マウスを掛け合わせたダブルノックマウスを作製中であり、これらマウスを用い、動脈硬化のプラーク破綻や腹部大動脈瘤の病態形成におけるYAP1の生理的意義の重要性を検討したいと考えている。今後の研究を進展させ、YAP1やそれを制御する因子を標的とした動脈硬化を基盤とした心血管疾患の新たな治療薬の創生に繋げていきたい。
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