研究課題/領域番号 |
18K06704
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
森 麻美 北里大学, 薬学部, 助教 (80453504)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 薬理学 / 微小循環 / 神経-グリア-血管連関 / 網膜血管緊張度 / 網膜神経傷害 |
研究実績の概要 |
網膜血管の恒常性維持には血管構成細胞のみならず、その周囲に存在する神経細胞やグリア細胞との相互作用も重要である。従って、網膜における神経-グリア-血管連関 (Neurovascular unit) を包括的に保護することが糖尿病網膜症の予防・治療のために重要であると考えられる。そこで本研究は、網膜における neurovascular unit の詳細と糖尿病による neurovascular unit の破綻機序及びそれらにおけるグリア細胞の役割を解明し、最終的にはグリア細胞を標的とした糖尿病網膜症に対する新規予防・治療薬の創出を目的としている。 これまでに、健常ラット網膜において、神経細胞由来の一酸化窒素 (NO) がグリア細胞においてアラキドン酸カスケードを活性化することにより、主にエポキシエイコサトリエン酸 (EETs) の産生・遊離を介して網膜血管を拡張させることを明らかにしている。2019 年度は in vivo 網膜血管機能実験により、健常ラットにおいて NO 供与体による網膜血管拡張反応はリアノジン受容体遮断薬により抑制される一方で、IP3 受容体遮断薬による影響を受けないこと、網膜神経傷害ラットにおいて観察される N-methyl-D-aspartic acid (NMDA) または NO 供与体による網膜血管拡張反応がグリア機能抑制薬により減弱することが示された。 本研究成果は、健常ラット網膜において、NO はグリア細胞のリアノジン受容体依存的にアラキドン酸カスケードを活性化して血管を拡張させること、網膜神経傷害ラットの網膜において、NMDA あるいは NO による血管拡張にグリア細胞が関与していることを示唆している。糖尿病の病態が進行して網膜神経が傷害された場合には、グリア細胞が代償的に血管緊張度を調節する可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、健常ラットの網膜において、神経細胞由来の NO がグリア細胞に作用し、アラキドン酸カスケードの活性化を介して血管を拡張させることを明らかにしている。本現象の機序について詳細な検討を行い、グリア細胞におけるアラキドン酸カスケードの活性化には、リアノジン受容体依存的な 細胞内 Ca2+ 濃度上昇が関与している可能性を見出した。 また、網膜神経傷害ラットの網膜では、大部分の神経細胞が脱落し、NMDA による血管拡張反応が著しく減弱することを報告していたが、網膜神経が傷害されても依然として観察される NMDA および NO による網膜血管拡張反応の機序について詳細な検討を行うことによって、いずれの反応においてもグリア細胞が関与することを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
①糖尿病ラットの網膜神経刺激による血管拡張機序:糖尿病の初期モデルラットを用い、NMDA あるいは NO 供与体による網膜血管拡張反応が変化するか否か、またその詳細な機序について、in vivoで評価する。さらに、EETs の硝子体内投与による網膜血管拡張反応が変化するか否かについても同様に評価する。 ②糖尿病ラットの網膜神経及びグリア細胞の変化:糖尿病初期モデルラットの網膜フラットマウント標本及び網膜組織切片を作製し、免疫蛍光染色法により神経細胞及びグリア細胞の各種タンパク発現と構造変化を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:2019年度は、in vivo 実験に重点をおいて検討し、in vitro 実験で用いる抗体の購入を次年度に見送ったため。
使用計画:引き続き行う in vivo 実験に用いる試薬や硝子体内投与シリンジなどの消耗品、in vitro 実験に用いる免疫染色用の抗体やスライドガラスなどの消耗品、そして両実験に使用する動物の購入費に充てる。さらに、成果を英語論文にまとめ、英文校閲料などに充てる予定である。
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