研究課題/領域番号 |
18K06705
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
鈴木 宏昌 東京医科大学, 医学部, 講師 (10424178)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 神経変性疾患 / 筋萎縮性側索硬化症 / 前頭側頭型認知症 / C9ORF72遺伝子変異 / 神経細胞死 / リボソーム生合成 / RNAヘリカーゼ |
研究実績の概要 |
当初の研究計画に従い、筋萎縮性側索硬化症(ALS, Amyotrophic lateral sclerosis)および前頭側頭型認知症(FTD, Frontotemporal dementia)の最も高頻度に認められるC9ORF72遺伝子変異に着目し、この遺伝子変異による神経変性メカニズムについて解析した。特に、C9ORF72遺伝子変異(GGGGCC異常反復配列)からATG非依存的に翻訳されるジペプチドリピートタンパク質であるプロリン-アルギニンリピートタンパク質(Poly-PR)による神経細胞死誘導メカニズムについて解析した。 その結果、(1)Poly-PRは運動神経細胞株および初代培養大脳皮質神経細胞においてJNK-Caspasesを介するアポトーシスを誘導する、(2)Poly-PRは主に核小体に局在し、リボソームRNA(rRNA, ribosome RNA)の発現量を低下させる、(3)rRNAの発現量低下は細胞死を誘導する、(4)Poly-PRによるrRNAの低下を抑制するとPoly-PRによる細胞死が改善する、ことを明らかにした。以上の結果から、Poly-PRは核小体においてリボソーム生合成を阻害することにより神経細胞死を誘導する可能性が示唆された。 さらに詳細なメカニズムを解明するため、Poly-PR結合タンパク質を、GST融合Poly-PRをベイトとして用いたGSTプルダウンアッセイにより探索したところ、Poly-PRは複数のDEAD-box RNA helicase (DDX)に結合することが明らかになった。DDXのノックダウンはrRNAの低下および細胞死を導くこと、Poly-PRは一部のDDXの機能を抑制することが明らかになったことから、Poly-PRによるrRNAの低下・神経細胞死誘導にはDDXの機能抑制が関与する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
C9ORF72遺伝子変異からATG非依存的翻訳機構により産生されるPoly-PRについて、Poly-PRによる神経変性メカニズムを解明するという当初の研究目的に対し、DDXを介したリボソーム生合成阻害がPoly-PR誘導性神経細胞死に含まれることを明らかにした。以上の結果からPoly-PRによる神経変性メカニズムの一端の解明に成功したが、Poly-PRによるリボソーム生合成阻害を抑制しても、Poly-PRの神経細胞死の完全な回復は認められなかった。この結果は、Poly-PR誘導性神経細胞死にはリボソーム生合成阻害以外の複数の細胞死誘導経路が存在することを意味する。今後、リボソーム生合成阻害以外の、Poly-PR誘導性神経細胞死メカニズムの全容解明に取り組んでいく。
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今後の研究の推進方策 |
Poly-PR誘導性神経細胞死の全容解明のため、以下の研究を計画中である。 (1)Poly-PRによるリボソーム生合成阻害に関して、DDX以外の標的分子を探索する。 (2)Poly-PR誘導性神経細胞死に関して、リボソーム生合成阻害以外の神経変性メカニズムを明らかにする。 以上を解析するに当たり、これまで同定したPoly-PR結合タンパク質に着目した解析を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を進めていく上で、結果の状況に応じて研究費を使用したため、当初の見込み額との差額が生じたが、研究計画自体に変更はなく、次年度の物品費に補填し、引き続き同様の研究を進めていく。
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