研究実績の概要 |
脳傷害や中枢神経変性疾患に対する再生治療法の確立に向けて、ES細胞やiPS細胞由来神経幹細胞などの移植実験が試みられているが、移植細胞の生着率が低く、その生着性の向上には、移植後の神経―血管間微小環境の構築を促し、血管新生とそれに伴う神経新生を亢進させる必要がある。本研究では、神経再生治療における新規創薬戦略の提示を目指し、線溶系因子の一つであるα2アンチプラスミン(α2AP)が、脳梗塞マウスモデルにおける神経―血管間での微小環境の構築を調節し、血管新生および神経新生を制御することを実証する。さらに、ES細胞およびiPS由来神経前駆細胞の移植後の生着性におけるα2APの役割を検証する。 2020年度では、α2APが内因性神経新生を抑制し、長期の記憶保持を制御することを明らかにした。また、α2APが酸化ストレス亢進因子であることも見出した(Kawashita et al. Molecular Brain, 2020)。脳梗塞作製1週間後の内因性神経新生について、α2AP欠損マウスおよび野生型マウス間で顕著な差はみられなかったため、2週間後および1ヶ月後の新生神経細胞数の数および移動量に対するα2AP欠損の影響について、現在解析中である。一方、GFP発現ES細胞由来大脳皮質神経細胞をα2AP欠損マウスおよび野生型マウスに移植した結果、脳内α2APレベルがES細胞由来大脳皮質神経細胞の移植後の生着性に影響する可能性が示唆された。今後、野生型マウスへの神経細胞の移植後に、α2APおよび抗α2AP中和抗体を投与し、一過性の脳内α2APレベル変化が移植細胞の生着性に及ぼす影響を解析する。また、脳梗塞モデルマウスに対する移植神経細胞の生着性に関する検討もさらに進める。
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