研究課題/領域番号 |
18K06709
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研究機関 | 大阪医科大学 |
研究代表者 |
高井 真司 大阪医科大学, 医学研究科, 教授 (80288703)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | キマーゼ / 核酸製剤 / 心筋梗塞 / 阻害薬 / 生存率 / 心機能 / 線維化 / 炎症 |
研究実績の概要 |
キマーゼはアンジオテンシンⅡやMatrix metalloproteinase (MMP)-9、Transforming growth factor (TGF)-βを産生して様々な疾患と深く関与する可能性が示唆されており、事実、ペプチド性キマーゼ阻害物質や低分子キマーゼ阻害薬による疾患予防および治療効果が示されてきた。本研究では、新規に開発した核酸製剤を用いて心血管障害に対する影響を解析することを目的としており、今年度はハムスターの左冠動脈を完全結紮して作製する心筋梗塞に対する核酸製剤の影響を解析した。 ハムスターに対する核酸製剤を皮下投与することにより血中に移行することを確認するため、1 mg/kg、3 mg/kg、10 mg/kgの濃度の核酸製剤を皮下投与して24時間後の血中濃度を測定したところ、濃度依存的に上昇し、しかもその濃度はハムスターキマーゼに対するIC50以上の値であった。このことより、1 mg/kg以上の濃度でハムスター心筋梗塞に対する影響を評価することにした。 ハムスターの心筋梗塞後3日の時点でキマーゼ活性が有意に増加し、その活性が核酸製剤により濃度依存的にかつ有意に抑制されることが確認された。また、心エコーにより解析した心機能(EFおよびE/A)も心筋梗塞後3日の時点で改善されることが確認できた。本モデルの心筋梗塞後14日までの生存率は、核酸製剤によって有意に高くなり、同時期に生存していたハムスターにおいても核酸製剤による心臓のキマーゼ活性の有意な低下と心機能(EF、FS、E/A)の有意な改善が認められた。一方、心重量/体重比、血圧、心拍数には影響しなかった。また、梗塞部位のMMP-9、TGF-β、コラーゲンの発現の減少が見られた。 これらのことより、研究目的の1つであった心筋梗塞後の心不全に対するキマーゼ核酸製剤の予防効果を確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、初めにハムスターに対する核酸製剤を皮下投与することにより血中に移行することを確認するため、1 mg/kg、3 mg/kg、10 mg/kgの濃度の核酸製剤を皮下投与して24時間後の血中濃度を測定した。その結果、濃度依存的に血中濃度が上昇し、しかもその濃度はハムスターキマーゼに対するIC50以上の値であった。 次に、心筋梗塞後1日の時点で1 mg/kg、3 mg/kg、10 mg/kgの核酸製剤を1日1回皮下投与し、心機能および心臓キマーゼ活性に対する影響を解析した。心筋梗塞後3日の梗塞部位でキマーゼ活性が有意に高値を示したが、1 mg/kg、3 mg/kg、10 mg/kgの核酸製剤すべてでキマーゼ活性が有意に抑制され、その効果は濃度依存的であった。そのため、心筋梗塞後14日までの生存率に対する核酸製剤の影響は、心筋梗塞後1日より1 mg/kgを1日1回投与することで評価することにした。 心筋梗塞後14日までの生存率は、プラセボ群では67%であったが、1 mg/kgの核酸製剤では92%と有意に高くなった。心筋梗塞後14日に生存していたハムスターの心重量/体重比は、正常群のハムスターに比べて心筋梗塞群で有意に増加していたが、核酸製剤はその増加には影響しなく、血圧および心拍数に対しても有意な影響はなかった。一方、キマーゼ活性は心筋梗塞群で有意に高値を示したが、核酸製剤は有意に抑制した。また、キマーゼの遺伝子発現に加え、MMP-9、TGF-β、コラーゲンの遺伝子発現も有意に増加していたが、核酸製剤はそれらを抑制した。心エコーによる心機能(EF、FS、E/A)もすべて核酸製剤によって有意に改善されていた。 これらのことより、心筋梗塞後の心不全に対するキマーゼ核酸製剤の予防効果を確認することができ、本年度中に論文発表できた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、ハムスターの心筋梗塞後1日より1 mg/kgの核酸製剤を1日1回皮下投与することで心筋梗塞後14日までの生存率改善と心機能改善が確認された。次年度は心筋症ハムスターに対する核酸製剤の効果を解析する予定である。 雄性5週齢の自然発症の心筋症ハムスター(J2N-n)とそのコントロールハムスター(J2N-k)を日本SLCより購入し、6週齢より心筋症ハムスターには生理食塩水(プラセボ群)または核酸製剤(核酸製剤群)を1日1回皮下投与する。実験開始後4週、8週、12週の時点で体重、血圧、心機能(EF、FS、収縮期末期径および拡張期末期径)を測定する。試験開始後12週の時点で、血中のレニン、アンジオテンシン変換酵素(ACE)活性、アンジオテンシンⅡ値を測定し、心臓のキマーゼ活性、ACE活性、MMP-9活性の測定、キマーゼ、ACE、アンジオテンシンⅡ受容体(AT1受容体)、MMP-9、TGF-β、コラーゲンⅠ、コラーゲンⅢの遺伝子発現量はリアルタイムPCR、蛋白発現量ウェスタンブロットにて測定する。組織学的解析としては、キマーゼの発現細胞である肥満細胞をトルイジンブルー染色にて染色し、キマーゼ発現細胞は我々が作製した抗ハムスターエピトープ抗体を用いて免疫染色し、それぞれ単位面積あたりの発現細胞数を定量する。また、線維化面積の定量のためアザン染色を行い、全心臓面積あたりの線維化面積率を定量する。これらのパラメーターを解析して心筋症の進展に対するキマーゼ阻害核酸製剤の影響を解析する予定である。 次年度の研究計画は、本学実験動物センターの動物実験委員会にて承認済みである(2019-095)。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度にハムスターの心筋梗塞モデルを用いて、核酸製剤のin vivoにおける有効投与量を設定する実験と心筋梗塞後の生存率に対する影響および心機能に対する効果を確認する実験に加え、キマーゼおよび心障害関連因子の解析を行った。それらの実験費として本年度に予定していた使用額は計画通りほぼ使用したが、18,026円の残額があった。 次年度は、本年度の結果を踏まえ、希少疾患で薬物治療が困難な心筋症に対するキマーゼ阻害核酸製剤の効果を検討する予定である。次年度の実験では心筋症ハムスターおよびそのコントロールハムスターの購入が必要である。また、試験開始後4、8、12週の時点で体重、血圧、心機能を測定する予定で、その際の麻酔薬および測定費が必要となる。試験終了時には血液中のパラメーターとしてレニン、ACE活性、アンジオテンシンⅡ値の測定する予定である。その他、生化学的解析として、キマーゼ活性、ACE活性、MMP-9活性の測定、キマーゼ、ACE、AT1受容体、MMP-9、TGF-β、コラーゲンⅠ、コラーゲンⅢの遺伝子発現量および蛋白発現量の測定、組織解析として肥満細胞数、キマーゼ発現細胞数、線維化面積率の解析を予定している。これらの費用に次年度使用額が生じる。
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