研究課題
前年度において、T型カルシウムチャネル阻害薬がブチル酸誘起過敏性腸症候群における痛みを抑制することが明らかとなった。本年度は、ブチル酸誘起過敏性腸症候群の発症メカニズムを解析するため、カンナビノイドCB2受容体を多く発現するマクロファージから遊離される核内タンパクhigh mobility group box1 (HMGB1) の関与を動物モデルおよび培養細胞を用いて検討を行った。始めに、はブチル酸誘起過敏性腸症候群マウスモデルにおける結腸過敏および関連痛覚過敏は、抗HMGB1中和抗体、HMGB1により活性化されることが知られるreceptor for advanced glycation end product (RAGE) アンタゴニストの反復前投与により消失した。結腸上皮がんHCT-15細胞では、ブチル酸処置24時間後にわずかながらHMGB1遊離が認められたのに対し、マウスマクロファージ様RAW264.7細胞では、ブチル酸処置により劇的なHMGB1遊離が認められた。さらに、HCT-15細胞では、ブチル酸処置により細胞増殖が抑制された。以上のことから、ブチル酸により結腸上皮細胞が障害されるとともにマクロファージからのHMGB1遊離が促進され、このHMGB1がRAGEを介して結腸過敏および関連痛覚過敏を誘起する可能性が示唆された。これらの知見により、抗HMGB1中和抗体あるいはRAGEアンタゴニストは、過敏性腸症候群の新たな治療薬となりうることが考えられる。
2: おおむね順調に進展している
前年度において、ブチル酸誘起過敏性腸症候群の発症にマクロファージが関与することが明らかとなった。さらに、ブチル酸誘起過敏性腸症候群モデルにおける結腸過敏および関連痛が6-PNGにより抑制されることが明らかになった。本年度はさらに、上記に加えて核内タンパクHMGB1やその受容体RAGEが関与する可能性を示唆する知見が得られた。
ブチル酸誘起過敏性腸症候群の発症にT型カルシウムチャネル阻害薬が有効であることが明らかとなったが、選択性の高いカンナビノイドCB2受容体刺激薬があまりないことや、我々のグループが同定したT型カルシウムチャネル阻害薬6-prenylnaringenin (6-PNG)のCB2アゴニスト作用が安定的に認められないことから、今回関与が認められたHMGB1/RAGE系に焦点をあてて過敏性腸症候群の発症メカニズムを解明を進めていたいと考えている。
2019年度にブチレート誘起過敏性腸症候群モデルにおけるカンナビノイド受容体アゴニストの鎮痛効果を検討したが、顕著な効果は認められなかった。そこで実験の方針を転換し、T型カルシウムチャネルとの関与をさらに明確にするための実験をすすめた。本来購入予定であった試薬などを購入しなくなったため、未使用額が生じた。次年度はT型カルシウムチャネルに対する抗体、アンタゴニストなどの購入費用にあてる予定である。
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すべて 雑誌論文 (9件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 4件)
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