研究課題/領域番号 |
18K06711
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
原 貴史 徳島文理大学, 薬学部, 講師 (90546722)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 亜鉛トランスポーター / 亜鉛シグナル / 循環器 |
研究実績の概要 |
亜鉛トランスポーターは、生体内の亜鉛恒常性を制御する、膜輸送体タンパク質であり、これまでに免疫応答、発生、上皮組織の形成など様々な役割が知られている。近年では、がんや代謝疾患をはじめとする種々の疾患の分子メカニズムへの関与が報告されつつある。亜鉛トランスポーターによって輸送された亜鉛は、シグナル因子として細胞内で標的分子に作用し様々な生理応答を制御する亜鉛シグナルとして機能することが知られている。しかし現在までに亜鉛シグナルと循環器についての報告はほとんどない。そこで本申請課題は、心循環器の恒常性維持における亜鉛シグナルの役割と病態への関与を解明し、新規治療戦略への貢献を目指すことを目的としている。 令和1年度は、1)Zip13遺伝子欠損マウスの初代培養心筋細胞を用いた検討、2) 亜鉛トランスポーターを制御する特異的化合物の探索を中心に検討を進めた。 得られた結果として、1) Zip13-KOマウスから得られた初代培養心筋細胞は、野生型マウスと比較して細胞の形態や拍動に違いがあることが確認された。また、Zip13-KOマウス由来初代培養心筋細胞のRNA-seqの結果より、野生型マウスの初代培養心筋細胞と比較して発現変動の認められる複数の遺伝子群を抽出した。 2) 亜鉛トランスポーターを制御する特異的化合物の探索のためにZIP14をモデルとして、ZIP14の薬剤誘導性発現細胞株の構築と、この細胞株を用いて細胞内亜鉛導入を指標とした実験系を確立した。今後は、本結果を元にZip13-KOマウスのin vivo心機能解析と、亜鉛トランスポーターの特異的化合物の探索を引き続き実施する計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)Zip13-KOマウスから得られた初代培養心筋細胞は、野生型マウスと比較して細胞の形態や拍動に違いがあることが確認されたことから、ZIP13が心筋細胞の分化や心機能に影響することが示唆された。また、Zip13-KOマウス由来初代培養心筋細胞のRNA-seqの結果より、野生型マウスの初代培養心筋細胞と比較して、分化、細胞接着、炎症などに関連する遺伝子群の発現に変動が確認されたため、Zip13-KOマウス由来初代培養心筋の培養時に確認された形態や拍動の違いが、これらの因子による可能性が示唆された。 2)亜鉛トランスポーターを制御する特異的化合物の探索のためにZIP14をモデルとして、HEK293細胞株を用いて、ZIP14の薬剤誘導性発現細胞株の構築と評価を行った。薬剤誘導によりZIP14が細胞表面に発現すること、また培養液への亜鉛添加により顕著に細胞内亜鉛量が上昇することが確認された。さらに、細胞内亜鉛の導入により細胞増殖が抑制されることが示された。この実験系は、ZIP14を介した亜鉛導入と細胞増殖を指標とした化合物の評価系として利用可能である。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は、1) Zip13-KOマウスのin vivo解析を含めたZIP13の心機能への役割解明と、2) 亜鉛トランスポーターの特異的化合物探索を中心に検討を進める予定である。 具体的には、1) in vivo心機能解析を心負荷病態モデルを用いて検討し、通常時と病態時におけるZIP13の心機能への関与を評価し、前年度に実施したRNA-seqの解析結果と合わせて分子レベルでZIP13の心機能を制御する亜鉛シグナルの同定を試みる。また、ヒトiPS細胞株を用いた心筋細胞への分化系を構築し、ヒトiPS細胞株の亜鉛トランスポーター遺伝子を、CRISPR法による遺伝子編集技術を用いてノックアウトすることによって、ヒト心筋細胞への分化や機能における亜鉛トランスポーターの役割を検討する。亜鉛トランスポーター遺伝子をノックアウトしたヒトiPS細胞株から得られた心筋細胞について、RNA-seq解析を行い分子レベルで亜鉛トランスポーターが関与する亜鉛シグナルを検証する。2) 化合物探索については、前年度に実施したZIP14によるスクリーニング系の確立と同様に、ZIP13についてHEK293細胞株を用いて薬剤誘導性細胞株の構築を行い、ZIP13の機能を制御する化合物の探索を試みる。上記1)においてZIP13と心機能との関連が明らかとなった際には、ZIP13遺伝子をノックアウトしたiPS細胞株を用いて心筋細胞へ分化させて、化合物スクリーニング系に供することも検討する。さらに、ZIP13に対する特異的化合物が得られた際には、その有用性を検証するために、上述の疾患モデルマウスやiPS細胞株由来心筋細胞を適用して効果を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた遺伝子改変動物の病態モデル評価に時間を要しているため、当該動物サンプルを用いた分子生物学的解析に必要な消耗品や試薬の購入を見合わせていることが理由である。
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