本研究課題は、亜鉛恒常性の心循環器における役割を解明することを目的としたものである。 これまでに我々は、亜鉛トランスポーターZIP13の機能欠損型遺伝子変異が、脊椎手掌異形成型エーラスダンロス症候群(EDSSPD3)の原因遺伝子であることを報告している。また最近になってEDSSPD3患者に筋萎縮の症状が報告されたことから、筋肉の維持や機能に対するZIP13の関与が示唆されている。他方、心循環器疾患の病態と、生体内の亜鉛量の変化に関する疫学的調査や、心機能の維持における亜鉛の役割など、亜鉛と心循環器系についての報告から、亜鉛の重要性が改めて注目されている。しかしこれまでに、生体内の亜鉛恒常性を制御を担う亜鉛トランスポーターZIP13と心機能との関連はほとんど報告されていない。そこで本研究課題では、ZIP13が制御する亜鉛恒常性と心機能との関連に着目し、心機能を制御する新たな分子メカニズムの解明を試みた。 マウス初代心筋細胞を用いた検討から、ストレス負荷を加えることによって、Zip13遺伝子の発現変動が認めれれることを確認した。次に、Zip13遺伝子欠損(Zip13-KO)マウス由来の初代心筋細胞を用いて検討を行ったところ、細胞の形態異常や不規則な拍動を観察した。Zip13-KOマウス初代心筋細胞のRNA-seq解析を行ったところ、炎症応答や細胞接着因子に関連する遺伝子群の発現変動が認められた。さらに、Zip13-KOマウスのin vivo 心機能解析を実施したころ、Zip13-KOマウスでは不整脈をはじめとする心機能の異常が認められた。さらに、Zip13-KOマウスの心筋組織において、ゴルジ体の機能制御に関わる遺伝子に有意な発現変動が認められた。以上のことから、ZIP13が制御する亜鉛恒常性は、心機能の維持に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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