研究課題/領域番号 |
18K06717
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西村 慎一 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 講師 (30415260)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 天然物 / 生体膜 / 膜脂質 |
研究実績の概要 |
天然有機化合物(天然物)は医薬や農薬、研究ツールの重要なリソースであることから盛んに探索研究が行われ、現在知られている化合物数は50万ともいわれる。近年では生理活性発現の基盤になる標的タンパク質を同定する様々な手法が開発されており、作用機序解析も盛んにおこなわれている。ところが、生体膜は重要な創薬標的であるにもかかわらず、そこを作用点とする天然物の研究例は限られている。ほとんどの研究手法は標的タンパク質の同定のためにデザインされているため脂質標的型天然物は見過ごされ、一方で、化合物・生体膜間相互作用の解析方法も限られているからである。そこで本研究では、生体膜への親和性を指標に天然物を探索し、それらの分子機能の解明を行うこととした。まず化合物探索研究においては、海洋微生物が産生する化合物の探索研究を開始した。すなわち、海洋より単離された微生物を種々の条件で培養し、それらの培養液抽出液を調整した。2年目には培養液抽出液の拡充とそれらの生物活性試験を行う予定である。次に天然物の作用機序解析については、特に特殊脂質分子について解析を進めた。本化合物は海洋放線菌の培養液抽出液のスクリーニングにより得られたもので、ステロール生合成変異株に対して効果が顕著に弱い。形態学的、遺伝学的解析により細胞分裂に特異的に作用している可能性が明らかとなった。作用機序の詳細を解析し、標的分子とステロールとの機能的関連性を明らかにする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では新規天然物の探索と、膜標的型天然物の機能解析を行う。前者についてはスクリーニングサンプルの調整を開始しており、2年目にはコレクションの拡充と生物活性を指標にしたスクリーニングを急ぎたい。一方、後者については、これまで機能解析が全く行われていない特殊脂質分子について、細胞分裂に特異的に作用することを見出し、関連するタンパク質因子をいくつか同定することに成功している。本化合物はステロールの生合成変異株に対する効果が野生株と比べて著しく低いため、標的分子の特定により、ステロールの新たな機能的側面が明らかになることが期待できる。これらを考慮し、おおむね順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
膜脂質に作用する天然物の探索研究では、海洋微生物の培養液抽出物のコレクションを拡充し、それらの生物活性をスクリーニングする。評価系は既に構築してあるため、培養液抽出物コレクションを調整し次第、スクリーニングと活性物質の単離を推進する。膜脂質標的型天然物の作用解析研究では、特殊脂質分子などの作用機構を各種変異株を用いた形態学とケミカルゲノミクス解析、必要に応じて新たな解析手法を取り入れて明らかにする。複数の化合物について解析を進める予定である。
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