天然有機化合物(天然物)は医薬や農薬、研究ツールの重要なリソースであることから盛んに探索研究が行われ、現在知られている化合物数は50万ともいわれる。近年では生理活性発現の基盤になる標的タンパク質を同定する様々な手法が開発されており、作用機序解析も盛んにおこなわれている。ところが、生体膜は重要な創薬標的であるにもかかわらず、そこを作用点とする天然物の研究例は限られている。そこで本研究では、生体膜へ親和性を示す新しい天然物に着目して研究を推進した。まず海洋放線菌の培養液抽出液のスクリーニングにより得られた特殊脂肪酸について、その抗真菌活性の発現メカニズムの解析を進めた。形態学的な解析、ケミカルゲノミクス解析、および遺伝学的な解析を行った結果、本化合物が細胞分裂を阻害することで生育を抑制することが明らかとなってきた。すなわち細胞の分裂面が細胞中央からスライドし、隔壁の形態異常あるいは複数の隔壁形成を行い、またこれは細胞分裂の特定の変異株で抑制された。この原因の解明には至っていないが、分裂面形成の初期因子が化合物により局在異常を示すことを見出しており、本因子の詳細な解明が待たれる。またシアノバクテリアに由来するポリオール化合物amantelideが脂質膜に親和性を示し、それがステロールの存在によって加速されること、そして細胞死を誘導することを明らかにし、糸状菌に由来するポリエン化合物amphiolが遺伝学的相互作用解析により細胞膜を標的にする可能性を報告した。
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