認知症においては、記憶障害・見当識障害などの中核症状と共に、行動・心理的な周辺症状(BPSD)が患者の生活の質を著しく低下する。本研究では、、BPSDに対する漢方薬の有用性を基礎科学的なアプローチにより明らかにすることを研究目的とした。 急性認知症モデルのスコポラミン誘発記憶障害モデルマウスにおいて、五苓散の作用を検討した結果、オープンフィールド試験ではスコポラミンによる自発運動量の増加(興奮)を抑制したことに加え、強制水泳試験では、スコポラミン単独投与群よりもさらに無動時間(うつ状態)を短縮させた。このことから、五苓散は急性認知症モデルにおけるBPSDの陰性症状および陽性症状の両方を改善する可能性が示唆された。そこで、本年度は前年度に引き続き、五苓散の作用機序を検討するためにin vitro測定系を用いた五苓散のアセチルコリンエステラーゼ(AchE)阻害作用について測定を行った。その結果、五苓散は有意なAchE阻害作用を示さなかった。このことから、五苓散のBPSDに対する改善効果はAchE阻害作用に依存しない機序もしくは生体内での代謝物による作用であることが示唆された。 一方、体内の酸化ストレスの亢進は認知症の発症を促進することが知られている。我々は先行研究において、医療用漢方製剤の抗酸化活性を評価した結果、駆お血作用を有する漢方薬は高い抗酸化活性を示すことを明らかにした。漢方医学において、血液の循環障害を示すお血は認知症の発症に関わるとされている。そこで、本年度はin vivoにおける代表的な駆お血剤である桂枝茯苓丸の抗酸化作用について検討を行った。正常マウスにおいて、桂枝茯苓丸の投与により生体の酸化ストレス指標であるd-ROMsが減少傾向となったことから、駆お血剤は抗酸化および駆お血作用の相乗効果により認知症の発症予防および進展防止に貢献する可能性が示唆された。
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