研究実績の概要 |
出発物質としてD-Glc, D-Gal, D-Man, D-Fuc, D-Rha, D-Xylを各々用い,1,5-anhydro-D-glucitol(1,5-AG)をはじめとする6種類の環状ポリオールの大量合成(十グラムスケール)に成功した。 合成した1,5-AGを用いて, 強いα-グルコシダーゼ阻害活性を有するtellimagrandin Iのアナログ合成を試みた。Tellimagrandin Iの構造に含まれるヘミアセタール性-OH基やhexahydroxydiphenol(HHD)基の有無,ガロイル基の数や位置が活性に与える影響を明らかにするために,25種類のアナログ合成に成功し,α-グルコシダーゼ阻害活性を検討したところ,次の点が明らかとなった。1)ガロイル基の数が増すほど活性も強くなる。2)ヘミアセタール性-OH基の有無は活性に影響を与えない。3)HHDP基(ビアリール構造)の存在により活性は減弱する。4)4位のガロイル基が欠如しても活性に影響を与えない。5)フェノール性-OH基は隣り合っていること(カテコール構造)がより強い活性発現に重要である。 また,DPPHを用いた抗酸化活性と構造の関係についても検討をおこなった。その結果,ガロイル基の数の増大とともに活性が強くなり比例の関係にあることがわかった。 次に,1,5-AG がヒト血液中に含まれる糖質としてグルコースに次いで多く含まれる環状ポリオールの一種であり,1,5-AGにはインスリン感受性増強作用を有するアディポネクチンの産生増強効果が報告されていることから,3T3-L1前駆脂肪細胞を用いて1,5-AGが脂肪細胞分化へ与える影響について検討を行った。1,5-AGの脂肪細胞分化能をOil Red O染色により検討したところ、500 μMおよび1000 μMにおいて脂肪細胞分化促進作用が認められた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り,研究代表者らが開発した方法により環状ポリ―ル類の大量合成に成功した。また,合成された環状ポリオール(1,5-AG)を用いて20種類以上の天然物のアナログ合成にも成功し、その構造とα-グルコシダーゼ阻害活性の相関について新たな知見を得ることができた。 一方、生体における1,5-AGの機能解明のために,合成した1,5-AGを用いて前駆脂肪細胞の分化誘導を指標に検討をおこなうことができた。 以上のことより,本研究は初年度の進捗状況としておおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
天然物の構造にヒントを得,より優れた活性をもつ化合物を探索し創製することが本研究の最終目標の一つである。今後は大量供給が可能となった1,5-AG以外の環状ポリオール類を用いて,より強いα-グルコシダーゼ阻害活性化合物のデザインと合成を試みる。また,1,4-anhydroalditol類の簡便合成法の確立にも挑戦する。 1,5-AGが生体においてどのような機能を有しているのか,次年度も引き続き脂肪細胞分化にともなうアディポネクチン産生能に着目して検討をおこない,遺伝子レベルで解明する。
|