研究課題/領域番号 |
18K06731
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
森元 聡 九州大学, 薬学研究院, 教授 (60191045)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ベルベリンブリッジ酵素 / マルバタバコ / フェルラ酸 / コニフェリルアルコール / コニフェリルアルデヒド / 酸化酵素 |
研究実績の概要 |
令和元年度は昨年度に引き続きマルバタバコから遺伝子クローニングしたベルベリンブリッジ酵素様タンパク質の大量発現系の構築を試みた。カイコで発現を試みたところ、発現直後の組み換え酵素は活性を示さず、4℃で一週間保存したのちに活性が発現するという興味深い現象が観察された。酵素活性としては、コニフェリルアルコールを酸化して、コニフェリルアルデヒドを経由してフェルラ酸まで酸化するという興味深い性質を有することを発見した。フェニルプロパノイドの1級アルコールを酸化してカルボン酸を与える反応を触媒する酵素はこれまでに確認されてない。 本年度はさらに活性部位の特定を検討した。すなわち、本酵素はフラボプロテインの一種であることから、フラビン部が活性部位の一部を構成していると考えられたので、ベルベリンブリッジ酵素様タンパク質のフラビン結合部位にポイントミューテーションの導入を行った。カイコを用いて変異遺伝子の発現を行ったところ、変異酵素の酵素活性は失活してなかったが、コニフェリルアルデヒドからフェルラ酸の反応は触媒しないが、コニフェリルアルコールから直接フェルラ酸を酸化することが判明した。今後この反応メカニズムを詳細に明らかにする予定である。 令和元年度はすでにベルベリンブリッジ酵素様タンパク質の大量発現系の構築に成功しているが、精製段階で酵素活性が失活することが判明した。さらに、上で述べたように酵素活性の発現には数日のインキュベーションが必要であり、酵素活性が不安定である。そこで、カイコの発現系とともに酵母での発現系の構築を進めており、安定な酵素の調製法を確立する計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、令和元年度までにベルベリンブリッジ酵素様タンパク質の大量発現系の構築と精製を完了し、結晶化を行う計画であった。カイコを用いた発現系により大量に組み換え酵素の発現に成功したが、本酵素が予期しない性質を有することが明らかとなった。すなわち、各種クロマトグラフを使用して、組み換え酵素を精製したが、酵素活性が不安定であり、精製操作により失活することが判明した。特に、イオン交換樹脂を使用すると容易に失活することから、新たな精製法の開発が必要と思われたので、種々のタグを付加したベルベリンブリッジ酵素様タンパク質の発現を試みている。 さらに令和元年度では、活性部位の探索を行い、フラビン結合部位への変異が完全な酵素活性にはつながらないとの新しい知見を得ることに成功した。特に本変異により、基質特異性や酵素反応によって生成する化合物のパターンが野生型酵素を用いた場合と異なるという、きわめて興味深い発見を得た。 以上のように、当初の目標であった結晶の獲得には至らなかったが、変異酵素の解析により、本酵素が極めて興味深い性質を有することを明らかにしたことから、令和元年度の本課題の進捗状況はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ベルベリンブリッジ酵素様タンパク質の大量発現系の構築に成功していることから、精製法の開発を行う計画である。「現在までの進捗状況」で述べたように、本酵素の精製にはイオン交換樹脂が使用できないことからアフィニティークロマトグラフィーを使用して、精製する計画である。このために酵素に付加するタグとしてHisタグ(現在付加しているタグ)とともにマルトース結合タグやStrep(II)-タグ等を付加したキメラ遺伝子を構築し、これらをカイコや酵母を用いて発現したのち、フィニティークロマトグラフィーのみで精製を行う計画である。精製に成功次第、結晶条件の検討、X線結晶解析、立体構造の決定を行う予定である。 さらに、変異酵素実験により得られた新しい反応メカニズムを明らかにするために、変異酵素についても、精製、結晶化、X線結晶解析、立体構造の決定を行い、原子レベルでベルベリンブリッジ酵素様タンパク質の反応メカニズムを正確に証明する計画である。
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