植物由来のステロイド化合物に着目し、細胞分裂期のがん細胞にのみ作用する「がん分子標的治療薬シーズ」を見出すことを目的に研究を進めた。3種のキンポウゲ科Helleborus属植物(H. foetidus、H. lividus、H. niger)、1種のイネ科植物(Avena sativa)、1種のキョウチクトウ科植物(Trachelospermum asiaticum)を研究材料として用いた。これらの植物をメタノールで抽出し、抽出エキスを調製した。抽出エキスを多孔質ポリスチレン樹脂で粗分画した後、HL-60ヒト白血病細胞およびA549ヒト肺がん細胞に対する細胞毒性を指標にステロイド化合物に着目した成分探索を行った。その結果、30種の新規化合物を含む50種のステロイドおよびステロイド配糖体を単離した。単離化合物の構造は、NMRを中心とした各種機器スペクトルの解析と加水分解により決定した。 単離された化合物のHL-60およびA549細胞に対する細胞毒性を評価した結果、複数の化合物に活性が認められた。強い細胞毒性を示した化合物および過去の研究で単離・構造決定された植物由来ステロイド化合物で処理したHL-60細胞のアポトーシス誘導活性を、細胞の形態変化、DNAの断片化、ミトコンドリア膜電位の変化、caspase-3および caspase-9の発現等を確認することにより評価した。その結果,H. foetidusおよびH. lividusから単離されたbufadienolide誘導体が、ミトコンドリアを介した経路でアポトーシスを誘導することを明らかにした。さらに、それら化合物で処理したHL-60細胞の細胞周期を解析した結果、いずれも細胞分裂期での顕著な細胞周期停止は確認されなかったが、アポトーシス細胞に特徴的なsub-G1ピークの上昇が確認された。
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