研究課題/領域番号 |
18K06736
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
宇野 茂之 日本大学, 医学部, 講師 (90307851)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ベンゾ(a)ピレン / DNA付加体 |
研究実績の概要 |
煙草煙や加熱食品に含まれるベンゾ(a)ピレン(BaP)は、DNA付加体を形成することで遺伝子毒性の要因となる発がん物質である。BaP DNA 付加体形成の主成分は7,8-diol-9,10-epoxy BaP(BPDE)であり、BaPがダイオキシン受容体(AHR)を介して誘導するCYP1A1がBaPをBPDEへ代謝する主要酵素であると言われてきた。しかしながら我々のCyp1a1遺伝子欠損マウスの結果は、CYP1A1以外の酵素の関与を明らかにした。だが分子の同定には至っていない。そこで本研究では、BaP DNA付加体形成の新しいメカニズムを解明することを目的とする。 平成30年度、令和1年度において、光センシングシステムの導波モードセンサーを利用した新たな簡便かつ迅速なDNA付加体検出法を確立した。センサーチップに固定した抗DNA抗体とビオチン標識抗BPDE抗体によるサンドイッチ法とストレプトアビジン-polyHRP―AEC反応を利用することでBaP DNA付加体を導波モードセンサーによって定性的に検出することができ、当初の計画を達成した。 令和2年度において、各種酵素の阻害剤を用い、DNA付加体形成への影響を導波モードセンサーによる新規DNA付加体検出法と32Pポストラベリング法を用い詳細に確認したところ、DNA付加体形成を抑制する酵素阻害剤を見出した。この酵素の対する他の阻害剤でもDNA付加体形成が抑制されたが、CYP1A1活性には影響を及ぼさなかった。これらの結果から、CYP1A1以外の酵素がDNA付加体形成に重要であることが示された。しかしながら阻害剤のサイドエフェクトは否定できない。そこで、現在、CRISPR-Cas9によるノックダウン細胞を樹立し、分子の同定を行っている。また、ファイトケミカルによる酵素活性阻害とDNA付加体形成の阻害作用についても探索を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究では、BaP DNA付加体形成の新しいメカニズムを解明することを目的としている。 平成30年度、令和1年度において、光センシングシステムの導波モードセンサーを利用した新たな簡便かつ迅速なDNA付加体検出法を確立した。センサーチップに固定した抗DNA抗体とビオチン標識抗BPDE抗体によるサンドイッチ法によってBaP DNA付加体をトラップし、ビオチン標識抗BPDE抗体にストレプトアビジン-polyHRPを結合後、HRP-AEC反応を導波モードで検出した。ELISA法では検出できなかったマウス肝臓および培養細胞のBaP DNA付加体を定性的に検出できた。これは1次スクリーニング法に利用できることから、当初の計画を達成した。現在原著論文の投稿中である。 令和2年度において、これまでの報告でBaPの代謝に関与する可能性があるが酵素の阻害剤を用い、DNA付加体形成への影響を導波モードセンサーによる新規DNA付加体検出法と32Pポストラベリング法によって詳細に確認したところ、DNA付加体形成を抑制する酵素阻害剤を見出した。この酵素の対する他の阻害剤でもDNA付加体形成が抑制された。また、これら阻害剤はCYP1A1活性には影響を及ぼさなかった。これらの結果から、CYP1A1以外の酵素がDNA付加体形成に重要であることを示した。しかしながら阻害剤のサイドエフェクトは否定できない。そこで、酵素のノックダウンによって確認することにした。siRNAを用いて酵素のノックダウンを行ったところ、十分なノックダウン効果が確認できなかった。 現在、CRISPR-Cas9によるノックダウン細胞を樹立している。また、ファイトケミカルによる酵素活性阻害とDNA付加体形成の阻害作用についても探索を進めている。 現在までの進捗状況はノックダウン細胞が予定通り作成できなかったことから、予定より遅れていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
1)DNA付加体形成分子の同定とDNA付加体形成メカニズムの解明 CRISPER-Ca9による阻害剤に対応する酵素のノックダウン細胞を用い、DNA付加体形成の分子を同定する。さらにノックダウン、強制発現細胞を用い、BaP代謝産物およびDNA付加体をHPCLおよびUPLC/MS/MSによって解析し、新たなDNA付加体形成メカニズムを提示する。 2)DNA付加体形成に影響を及ぼすファイトケミカルの探索 新たに同定した分子に対する阻害効果を示すファイトケミカルを酵素活性の阻害とDNA付加体形成抑制効果を指標とし、培養細胞を用いて検索する。探索したファイトケミカルのDNA付加体形成および発がんへの効果を腺がん発症のモデル動物であるCyp1a1遺伝子欠損マウスを用い検討する。これら研究成果を英文専門誌に報告する。
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次年度使用額が生じた理由 |
DNA付加体形成分子の同定を行う目的でsiRNAによるノックダウン細胞を用いて検討を遂行しようと試みたが、検討を進めるだけのノックダウン効果を得られることができなかった。そのためノックダウン細胞によるDNA付加体形成への影響を検討することができていない。現在、CRISPR-Cas9によるノックダウン細胞の樹立を進めており、その後DNA付加体形成の測定等に残額を使用する。
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