研究実績の概要 |
これまでの研究で、キアゲハ幼虫の吐き戻し液から同定したエリシターをセリ科薬用植物のボウフウの培養植物に投与することで、植物体中のクマリン類及びポリアセチレン化合物が増加することを見出した。その際、エリシターを投与した植物体からヘキセノールやヘキセナールなどのオキシリピン類の放出が確認されたことから、このエリシター化合物による二次代謝の誘導には、ジャスモン酸に由来するシグナル伝達経路の関与が推定された。一方、シソ科エゴマに同様の処理を行ったところ、二次代謝物の蓄積及びオキシリピン類の放出は認められず、サリチル酸メチルの放出が検出された。そこで、ボウフウ及びエゴマについてジャスモン酸生合成に関与する遺伝子(AOS, AOC, OPR3及びOPCL1)の発現並びにサリチル酸生合成に関与する遺伝子(PAL)の発現解析を行った。その結果、ボウフウではエリシター投与後、LOX, AOS, AOC, OPR3, OPCL1の発現レベルが次第に上昇し、高い発現レベルが維持されたのに対し、PALの発現レベルに変化は認められなかった。同様の処理を施したエゴマでは、13-LOX, AOS, AOCの発現レベルは投与後4時間でも高いレベルが維持されたが、PALの発現レベルの上昇に反してOPR3とOPCL1の発現レベルは減少した。サリチル酸は、植物内で12-oxophytodienoic acidのプラスチドからの放出を抑制することが知られており、そのためOPR3とOPCL1の発現レベルが減少したものと考えられる。これらの結果から、キアゲハ幼虫の吐き戻し液から同定したエリシターは、ジャスモン酸経路を介してセリ科のボウフウの二次代謝物生合成を誘導するのに対して、エゴマではサリチル酸経路という植物の別の防御機構を誘導し二次代謝物生合成誘導に対しては機能しないことが明らかとなった。
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