研究課題/領域番号 |
18K06741
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
岡田 岳人 徳島文理大学, 薬学部, 特別研究員 (60412392)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 漢方処方 / 漢方方剤 / 漢方薬 / 生薬 / 証 / データベース / ノンターゲット化学分析 / 多変量解析 |
研究実績の概要 |
様々な生薬を組み合わせて製する漢方方剤(葛根湯、当帰芍薬散などの漢方薬)は、漢方医学独特の診断基準「証」(個人の状態・体質を診断する基準)に沿って各個人に処方される。そのシステムは多様な治療経験・エビデンスに基づいたものであり、全体像は複雑である。こうした視点から本研究では、ノンターゲット化学分析や多変量解析のように、複雑な関係性が潜在している研究対象や膨大なデータの解析に適した方法を用いて、漢方処方システム基礎理論の包括的モデル化を進めている。このモデル化は、より一般化された分かりやすい漢方薬適正使用、構成生薬量・比を増減するなどした新たな処方の提案、および漢方における薬物治療と共通点のある他の伝統医学への応用に繋がることが期待される。 本年度は昨年度に引き続き、漢方方剤含有成分の包括的化学分析から得られるデータ、すなわち方剤の化学フィンガープリントと、「証」との関係に焦点を当てた研究を進めた。研究に用いる方剤の化学フィンガープリントは質量分析(Mass Spectrometry; MS)などによって得た。このデータと「証」との関係について多変量解析を行った。多変量解析は、主成分分析(Principal Component Analysis; PCA)や部分最小二乗(Partial Least Squares; PLS)法といった手法により行った。その結果、方剤を「証」への処方特性に基づいて分類したり、方剤の化学フィンガープリントと「証」との関係を考察したりすることができた。こうした研究を積み重ねることによって、方剤―「証」の包括的モデル化を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度も研究計画に沿って漢方処方データベースの構築、漢方方剤の化学フィンガープリント分析、およびそれらデータの多変量解析による漢方処方システム基礎理論の包括的モデル化を進めた。また、研究遂行においてコロナ禍の影響を受けざるをえない状況があった。 漢方処方データベースは、漢方方剤を構成する生薬の量・比、方剤が処方されうる服用者の「証」、および方剤の化学フィンガープリントによって構築した。化学フィンガープリントのデータは、MSまたは核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance; NMR)を基盤とするノンターゲット化学分析によって得た。これらのデータを基に多変量解析を行った。この多変量解析はPCAやPLS法などにより行い、方剤のクラスタリングや、方剤と「証」を結び付けた分類・回帰を主に行った。また、多変量解析から得られた結果を元データである処方データベースと併せて考察することで、本研究から得られた知見の新規性や妥当性について検討している。以上の流れで方剤―「証」の包括的解析を進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの本研究によって、データベース構築、化学フィンガープリント分析、および多変量解析の手法が、漢方方剤と「証」との関係性の包括的モデル化に有用であることが示唆された。次年度も、これまでに確立してきた上記の手法を基に本研究を進めていく計画である。今後の主な課題としては、多変量解析が導き出した結果への更なる考察、そして未分析・未解析の方剤およびそれらの処方に関する研究の追加が主に挙げられる。また、本研究から得られた知見・示唆を臨床適用と照合し、尚且つ本研究へとフィードバックすることで、より再現性・信頼性および予測性の優れた処方システムモデルの構築を目指す。そして、本研究から得られた成果は学会・シンポジウムでの発表や学術論文・書籍などにより公表していく考えである。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度もコロナ禍の影響を受けた部分があり、物品費や旅費などの支出が抑えられ次年度使用額が生じた。また、節約や手持ちの物品により補ったところもあり支出が抑えられた。次年度は、研究遂行のために必要な物品の購入や研究成果発表などへの支出が既に見込まれており、生じた次年度使用額を合わせた学術研究助成基金助成金を活用させていただく予定である。
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