様々な生薬を組み合わせて製する漢方方剤(葛根湯、当帰芍薬散などの漢方薬)は、漢方医学独特の診断基準「証」(個人の状態・体質を診断する基準)に沿って処方される。そのシステムは多様な治療経験・エビデンスに基づいたものであり、全体像は複雑である。こうした視点から本研究では、研究サンプルの包括的化学分析やコンピュータを用いた機械学習のように、複雑な関係性が潜在している研究対象や膨大なデータの解析に適した方法を用いて、漢方処方システム基礎理論の包括的モデル化を進めてきた。このモデル化は、より一般化された分かりやすい漢方薬適正使用、構成生薬量・比を増減した新処方の提案、漢方治療と共通点をもつ他の伝統医学などへ応用されることが期待される。 研究実施最終年度となる本年度は、昨年度に引き続き方剤含有成分へのノンターゲット化学分析から得られるフィンガープリントと、「証」との関係に焦点を当てた研究を進めた。その方剤化学フィンガープリントは質量分析(Mass Spectrometry; MS)などによって得た。また、方剤の適用「証」は漢方治療経験に基づいた文献類を主に参照して解析用にデータベース化した。そしてこれら両者の関係について多変量解析を行った。多変量解析は、主成分分析(Principal Component Analysis; PCA)や部分最小二乗(Partial Least Squares; PLS)法などにより行った。その結果、方剤を「証」への処方特性に基づいて分類したり、方剤の化学フィンガープリントと「証」との関係を考察したりすることができた。加えて最終年度は、化学フィンガープリントや「証」データ、そして多変量解析の結果および考察の妥当性についても改めて検討し、併せて研究全体の取りまとめを行った。こうした一連の研究によって、本研究対象として選んだ方剤と「証」との関係を解析した。
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