研究課題/領域番号 |
18K06761
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研究機関 | 星薬科大学 |
研究代表者 |
落合 和 星薬科大学, 薬学部, 教授 (40381008)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 胎児薬物動態 / ドキソルビシン / リポソーム製剤 / 大脳皮質 / ニューロン分化 |
研究実績の概要 |
我が国を含む先進諸国では、晩婚化が進み、平均出産年齢が上昇している。それに伴い、妊娠中に何らかの疾病に罹患する割合が年々、増加している。妊娠中の薬物治療は、医薬品の胎児への影響が最大の問題となる。また、医薬品の添付文書等に「妊婦に投与可能」である旨が記載されている場合でも、過去の薬害事件の影響から、その不安を払拭できていない。本研究グループでは、妊娠中に乳がんに罹患する人が、多いことから、母体に投与した薬物が胎児中でどのような動態をとるかを解析するために、妊娠中期マウスにドキソルビシン及びそのリポソーム製剤ドキシルを投与し、その胎児中の薬物動態を比較した。 (1)ドキソルビシンとドキシルの胎児臓器中の薬物濃度の比較解析 臨床用量を中心にドキソルビシンまたはドキシルを妊娠中期のマウス尾静脈内に投与し、経時的に胎児全体と胎児の各臓器(脳、肝臓、小腸など)を摘出し、それぞれの薬物量を測定した。その際、母体の血液、羊水、胎盤についても、胎児との薬物量の比較のために採取し解析も行った。 (2)妊娠中期ドキソルビシンまたはドキシルの胎児臓器への影響(毒性)解析 胎児への分布が認められた臓器について、組織切片を作製し病理解析するとともに、細胞死の有無を免疫組織化学染色法により調べたところ、ドキソルビシン投与直後の胎児の大脳皮質のニューロンへの分化に異常が認められた。 以上のように、本研究課題の今年度の研究は、計画どおり実施、学術論文への投稿のまとめを行なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
妊娠マウスにドキソルビシンを投与すると、母体では体内からの消失が早いのに対して、胎児へと移行したドキソルビシンは、時間の経過にともない、体内に蓄積していくことが明らかとなった。また、ドキソルビシンの構造的特徴を利用して、母体から胎児へと移行したドキソルビシンが胎児のどの臓器に分布しているかを調べたところ、肝臓、小腸および脳への蓄積(分布)が多いことが明らかとなった。 一方、ドキシルを投与した妊娠マウスでは、胎児へのドキソルビシンの移行は、母体に投与後24時間までは、低いことがわかった。しかしながら、それ以降の時間帯では、胎児中のドキソルビシン濃度が上昇していくことが明らかとなった。 胎児期の中枢神経系は、神経幹細胞の自己増殖に始まり、ニューロン、アストロサイトへの分化が時空間的に制御されている。本課題では、母体から胎児へと移行したドキソルビシンの中枢神経系への影響を解析した。その結果、ドキソルビシンを投与した妊娠マウスの胎児の脳では、神経幹細胞からニューロンへの分化が促進していることが明らかとなった。一方、ドキシルを投与したマウスの胎児では、ドキソルビシンの投与で観られた胎児のニューロンへの分化がコントロールマウスと同様であった。以上のことから、ドキソルビシンをリポソーム製剤化することで胎児への毒性は軽減できるものと考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、「妊娠初期からの治療のためのドキシルの薬物動態の解析」について重点的に解析を行う。 妊娠初期(妊娠11日マウス)にドキシルを投与した際の、胎児薬物動態を前年度までと同様に解析する。移行が認められた臓器は細胞死の有無を検討する。また、移行が見られないドキシルの最高用量を見極め、妊娠初期からの治療の可能性に関する基礎データとする。 胎児期から生後にかけての中枢神経系の発生は、生体の知的機能の発達において極めて重要である。したがって、この時期での神経発生が一度、障害を受けると、その修復は不可能と言っても過言ではない。今後、妊娠中にドキソルビシンを投与したマウスから生まれた子供について、行動薬理学等の手法を用いた解析が必要になるものと考える。 今年度中に本課題の総合的なまとめを行い、学術論文として投稿する。
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