研究課題/領域番号 |
18K06769
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
長井 紀章 近畿大学, 薬学部, 准教授 (90411579)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ナノ結晶製剤 / 網膜 / 点眼製剤 / 界面活性剤 / 糖尿病 / バイオアベイラビリティ / ビーズミル / 湿式破砕 |
研究実績の概要 |
点眼により非侵襲的に薬物を眼後部へ到達させ、安全で効果的な新規の網膜症治療を可能とする「ナノ点眼製剤の開発」を目指し、令和1年度は血管拡張作用を有するシロスタゾールやニルバジピンをはじめ、レバミピド、インドメタシンといった様々な薬物ナノ結晶の調製法確立や組織に対する安全性と移行性について検討した。 1)ナノ結晶点眼製剤の角膜に対する傷害性について検討する: 再結晶化を基盤とした結晶形制御技術により結晶多型を同定・作成し、よりナノ結晶化しやすい結晶構造を解析した。また、本検討から得られた結晶に対し、セルロースやシクロデキストリンを添加剤としたビーズミル法(乾式・水中破砕)を適用することで、シロスタゾール、ニルバジピン、レバミピド、インドメタシン等数種のナノ結晶製剤の調製法を確立した。さらにこれら薬物ナノ結晶分散液を、ヒト角膜上皮細胞や家兎へ適用した際の細胞傷害性を検討し、本ナノ製剤が従来製剤と比べ細胞傷害性が少ないことを明らかとした。 2)ナノ結晶点眼製剤適用後の眼内薬物分布及び動態を確認する: 昨年の検討で示唆された点眼後におけるエンドサイトーシスによる取込みと薬物粒子サイズの関係性をより詳細に検討し、クラスリン介在性エンドサイトーシス、カベオラ介在性エンドサイトーシス、マクロピノサイトーシス等がナノ結晶の組織移行に関与していることを明らかとした。また、本性質を応用することで、眼瞼適用による眼表面への持続的な薬物供給システムや眼後部に位置する水晶体への薬物供給に伴う白内障治療への応用化が可能であることを示した。 以上、結晶形制御技術とビーズミル法の融合により得られたナノ結晶点眼製剤は高い眼内移行能を有することを見出した。来年度は、これら高い眼内移行性に徐放能を付加することでより高い治療効果が期待できる製剤開発を目指すとともに、網膜疾患モデルを用いてその効果を評価する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シロスタゾール、ニルバジピン、レバミピドおよびインドメタシンといった複数の薬物を対象に眼科用ナノ結晶製剤の調製法を確立した。これら眼科用ナノ結晶製剤は分散性、安定性が高く、高い眼内移行性を示していた。また、本製剤適用後の眼組織に対する傷害性が従来の点眼製剤に比べ低く、安全であることを明らかとした。さらに、ナノ製剤の点眼により水晶体へ薬物を高濃度に供給することで白内障モデルの混濁予防が可能であること、瞼に塗布することで眼内への持続的な薬物供給が可能であることなど、ナノ製剤による眼内組織への薬物送達方法と治療への応用効果を複数の適用方法から示した。これらナノ結晶化に伴い眼内組織への効果的な薬物供給が可能であることを証明できたことから、本年度の研究が順調に進展しているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
ナノ結晶を基盤とした眼科用製剤が高い眼内移行性を示すことを明らかとしたため、次にナノ結晶製剤にPluronicF-127、メチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなどを追加し、点眼時における眼表面滞留性や硝子体投与時における硝子体内での薬物徐放化を目指す。本処理により眼内移行性と徐放性の両方を有するシロスタゾールやCa阻害剤含有製剤を調製し、本製剤適用により糖尿病由来網膜機能障害における網膜組織変化や網膜電図の障害がどの程度改善されるのかを評価する。これにより「新たな網膜症療法」を確立する予定である。
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