腫瘍選択的にブラジキニン(BK)を作用させることを企図した、pH応答性ポリマー結合型ブラジキニン(P-BK)を創製し、高分子性抗がん剤の腫瘍への送達および抗腫瘍効果を増強できるか明らかにすることを目的とした。本年度は以下の結果を得た。皮下移植担がんマウスへの遊離BKの投与では、一過性の腫瘍内血流量の減少が観察されたが、P-BKの投与により腫瘍内の血流量が3時間以上にわたり約1.5倍に増加した。正常皮下血流には変化がみられず、P-BKの作用は腫瘍への選択性があると考えられた。ドキソルビシン内包PEG化リポソーム(PL-DOX)とP-BKを併用投与したところ、非併用群と比較して正常臓器では集積量の変化はみられなかったが、腫瘍へのドキシルビシン送達量が2~3倍に増加した。同作用は蛍光標識アルブミンを用いた場合にもみられており、広範な高分子性抗がん剤にP-BKの併用投与が応用できる事を示唆している。抗腫瘍効果を検討したところ、PL-DOX単独投与群と比較して、P-BK併用投与群では腫瘍体積の増大がおよそ半分に抑制されていた。これらの結果はリポソーム製剤を含む高分子性抗がん剤の腫瘍集積性および抗腫瘍効果を増強する併用薬としてP-BKが有効であることを示している。 さらに中性水溶液中での安定性の向上を図った新規BK誘導体(rcBK)を合成し、pH応答性ポリマーへの結合を行った(P-rcBK)。P-rcBKはP-BKと比較して中性水溶液中における安定性が著しく向上していた。またrc-BKは遊離BKと同等の血管透過性亢進活性を示すことを明らかにした。今後は高分子性抗がん剤を用いた抗がん治療における、P-rcBKの併用効果を検討していく予定である。
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