虚血性脳血管障害は脳血管の塞栓によって発症する。グルコースや酸素の供給が滞ることで本来の血管内皮細胞の性質が失われ、結果として血液-脳関門(BBB)の破綻が起きることは広く知られているものの、in vitro の良い病態モデルが存在しないため、iPS 細胞を用いた病態モデルの確立を試みた。 虚血状態を模倣するためにヒトiPS細胞由来脳血管内皮細胞をグルコース非存在下かつ低酸素条件で培養したところ、バリア機能が著しく減弱した。虚血を発症した後、血栓が取り除かれることで血液の再灌流が起こるが、その状況を再現するために虚血条件下に曝したヒトiPS細胞由来脳血管内皮細胞に対してグルコースや酸素を再供給したところ、バリア機能が12時間程度で回復した。齧歯類由来の内皮細胞を用いた従来の報告と比べて再灌流後のバリア機能の回復が極めて早いことから、ヒトiPS細胞由来脳血管内皮細胞は恒常性の維持能力が高いことが示唆された。 虚血時には脳内に存在する細胞によって数多くの炎症性メディエーター放出されることが知られている。そこで、各種炎症性メディエーターが膜間電気抵抗値におよぼす影響を調べたところ、TNF-a が最もバリア障害能が高いことが明らかとなった。 TNF-a は主にアストロサイトやミクログリアから放出される。そこで、再灌流条件時において TNF-a をヒトiPS 細胞由来脳血管内皮細胞に対して作用させたところ、再灌流条件で観察されたバリア機能の回復が著しく妨げられた。ただし、TNF-a の作用メカニズムについては脳血管内皮細胞へのアポトーシスを介さないものであった。以上より、本研究では酸素濃度、グルコース供給に加えて、周囲の細胞が産生する炎症性メディエーターに対しても考慮した虚血性脳血管障害モデルを確立した。
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