研究課題
小児期は発達に伴う薬物動態の変動が大きいため、小児は薬物投与の個別最適化が必要な集団の一つである。本研究では、小児薬物療法の個別化を推進するため、新生児から小児期における薬物体内動態変化に関する情報を得るとともに、薬物動態の共変量とその裏づけとなる根拠を追加し、これまでの研究を発展させる。2年目の研究概要は以下の通りである。1.マシテンタンの体内動態に及ぼす小児の発達変動と併用薬の影響:小児におけるマシテンタンと活性代謝物の血漿中濃度にはそれぞれ最大13.2倍、9.7倍の個体差が観察された。マシテンタンのクリアランスの共変量の一つである発達変動の記述にはアロメトリー式が有用であることが明らかとなった。さらに、ボセンタン投与歴のある場合のクリアランスは投与歴がない患者に比べて1.3倍高いことが重回帰分析によって示唆された。2.新生児患者におけるカフェインの体内動態解析:新生児無呼吸発作の治療のためにカフェインを服用中であった10名の新生児の残血清を使用し、クリアランス算出を試みた。カフェインの代謝酵素であるCYP1A2の発現量や腎機能は出生後から著しく変化すると想定されたが、本研究の結果、クリアランスは文献値より想定される新生児の糸球体ろ過速度の1/20程度の低い値であった。また、少なくともカフェイン投与を必要とした修正日齢240日までは、代謝物(PX、TP、TB)の血中濃度は低く、肝代謝の寄与は殆どない(CYP1A2の発現が無い)と考えられた。このことは、新生児期のクリアランス変動を数式化するにあたり、薬物代謝酵素の発現変動の数理モデルを導入する必要性が低い事を示唆している。一方、カフェインが蛋白結合率の小さい薬物であることを踏まえると、尿細管における何らかの再吸収機構が関与すると推察された。
3: やや遅れている
本研究計画において研究対象としていたボセンタンを服用してきた症例のほぼ全員が治療上の理由からマシテンタンへの切替を行う事となった。このため、臨床試験の登録症例数は当初見込みよりも少なくなる見通しである。一方、マシテンタンへ切替した患者について薬物動態(薬物代謝能)の長期変化を継続的に評価する計画であるが、長期経過の過程において併用薬のタダラフィルを中止する症例が増えており、長期観察研究に耐える試験デザインの改訂とデータマネジメントにおいて慎重な工夫を要する状況である。また、初年度において2名のPLE症例の薬物動態解析に着手したが、今年度は新たなPLE症例の追加がなかった。
マシテンタンとタダラフィルのデータ解析の進捗を見極めつつ、必要に応じて解析対象薬物の範囲を拡大する。その場合は、北陸地区の研究協力者の施設からの参加を検討する。抗てんかん薬等の循環器官用薬以外の薬物を対象とする選択肢も検討中である。また、小児期においてはCYP3A4の発現変動が予想押される。マシテンタンの肝代謝に関与する分子種を明らかにする目的で、ヒトP450発現系ミクロソームを用いたin vitro実験を行う計画である。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件)
Pharmacogenomics J
巻: 20 ページ: 306-319
10.1038/s41397-019-0117-x.