研究課題/領域番号 |
18K06781
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
谷口 俊一郎 信州大学, 医学部, 特任教授 (60117166)
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研究分担者 |
肥田 重明 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(薬学), 教授 (10345762)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ビフィズス菌 / 宿主免疫応答 / サイトカイン産生 / 黄色ブドウ球菌 / マクロファージ / 好中球 / TLR2,4 / 大腸菌 |
研究実績の概要 |
グラム陽性偏性嫌気性であるビフィズス菌(B菌)の性質を利用した抗腫瘍性分子のDDS構築において、臨床利用での安全の確立が重要な課題として免疫制御に関わる分子同定を目的として研究を進めた。 B菌や黄色ブドウ球菌を腹腔内投与し、6時間後の腹腔内における免疫細胞集団の数を比較した所、生食投与群に比して好酸球、好中球、B細胞数は増加しており、B菌と黄色ブドウ球菌間では好中球のみ有意な差が認められ、B菌においてその数は少なかった。細菌に対する自然免疫応答には、マクロファージや樹状細胞、好中球が重要な役割を果たしている。骨髄由来マクロファージを用いて、in vitroでB菌種の免疫応答についても検討を行った。B菌の生菌で刺激した場合、IL-6, CCL2, TNF-αなどのサイトカイン産生を誘導した。一方、熱処理した死菌を用いた場合は、サイトカイン産生は1/5以下であった。これらは乳酸菌などのグラム陽性細菌でも同様の結果が得られた。また、熱処理やUV処理による死菌の免疫活性化能に差はなかったが、超音波破砕では免疫活性化作用が認められた。逆にグラム陰性常在細菌である大腸菌では、熱処理した死菌でも自然免疫細胞を活性化する点でB菌・乳酸菌の結果と異なっている。一方、同じグラム陽性菌である黄色ブドウ球菌の培養上清中には免疫活性化分子が含まれていたが、B菌、乳酸菌では産生されていなかった。これらの結果は生体内で正常酸素分圧時にはB菌が死滅するが、死菌の免疫活性化能は顕著に減少する可能性を示しており興味深い。グラム陽性菌の細胞壁の多糖類や蛋白質は菌種により異なることから、宿主の種々の病原体センサーが免疫活性化に関与していると考えられる。B菌によるマクロファージの活性化には、主にTLR2とTLR4受容体が関与していることがそれらの遺伝子欠損マウス由来マクロファージの結果から示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、ビフィズス菌の免疫反応における責任分子の同定を目標にしているが、そのためにまずは他菌との比較や生菌と死菌で免疫反応活性化作用に差があることから、菌抽出分子、培養上清分子、特に膜蛋白質の免疫制御作用の評価結果を確定するための再現実験などを丁寧に行った。その過程で、候補タンパク質の幾つかを予備的に得たが遺伝子同定と遺伝子操作まではまだ至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
ビフィズス菌の細胞壁は内側にペプチドグリカン(PG)の網目構造と多糖類で構成されている。これまでに主にリポプロテイン画分にTLR2依存的な活性物質が存在している可能性が示唆された。本年度は、生菌と死菌での膜構成変化と免疫活性化作用の変化について詳細な検討を行う。また、ビフィズス菌由来の既知分子や機能不明の膜タンパク質についても抽出やリコンビナントタンパク質を作成し、免疫制御作用について評価する。常在性偏性嫌気性菌の宿主に対する抗原性変化の解析から、免疫調節作用についてビフィズス菌DDSシステムの安全性の確立をめざす。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度内予定していた学会(2019年3月の国際学会)への出張が中止になったことと投稿予定の論文が今年度にずれ込んだため。 次年度使用額は令和2年度申請額と合わせて物品費や旅費などとして使用する予定である。
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